美の女神の名をもつ惑星
金星は宵の明星、明けの明星としてよく知られています。
非常に明るく美しく輝く様子からヨーロッパでは美の女神「ビーナス」の名前がつけられました。
また、日本では古来より「万葉集」や「枕草子」などの文学作品において、「ゆうづつ(夕星)」として描かれています。この「ゆうづつ」とは夕方に見える金星「宵の明星」のことです。
日本でも金星はとても美しい星として親しまれてきました。
地球の双子星
金星は地球の1つ内側の軌道を公転していて太陽からの距離も地球に近く、直径は地球の0.95倍、質量は地球の0.8倍と、大きさもかなり地球に近い惑星です。
太陽からの距離や大きさなど、その特性が地球と類似しているため地球の双子星といわれています。しかし、実際には地球とは大きく異なる環境の惑星です。
たとえば、金星表面の温度は約460℃で、太陽により近い水星の表面温度(昼側約430℃)より高くなっています。金星がこれほどまでに高温なのは二酸化炭素による温室効果が働いているためと考えられています。
また、地球の大気は窒素と酸素が主成分ですが、金星の大気は二酸化炭素が96パーセントを占めています。この分厚い大気のため、金星表面での気圧は約90気圧(1気圧は1013hPa)にも達します。これは地球表面での気圧の90倍で、水深900メートルの海中と同じ圧力です。
金星が地球に比べて極端に大気圧が高いのはどうしてでしょうか?
それは、地球には海があるのに対して、金星には水がほとんどないからです。地球の初期の大気も現在の金星と同じぐらいの大量の二酸化炭素をふくんでいたと考えられています。海がある地球では、海水に二酸化炭素が溶けて石灰岩として大気から除去されました。
しかし、金星では太陽に近いため温室効果の影響が大きく水がほとんど蒸発し、大量の二酸化炭素を含んだ大気が残りました。
太陽と惑星の距離が大気の組成に大きく影響しているため、金星が高温高圧の環境であることは太陽からの距離が原因ともいえるでしょう。金星の大気の成り立ちについては後ほど詳しく説明します。
自転と公転の向きが逆
ところで、金星は自転の向きと公転の向きが逆になっています。
太陽系の天体の多くは、自転と公転が同じ方向(北から見て反時計回り)です。しかし、金星は非常に遅い速度で逆向きに自転し、1回転するのに地球時間で243日もかかります。
したがって、地球では太陽は東から昇って西に沈むのに対して、金星では太陽が西から昇って東に沈み、1日の長さは地球の243日分もあるのです
かなり金星の1日は地球の1日と異なることがわかります。なぜこのようなことになっているのでしょうか?
太陽系形成の過程で惑星の公転と自転の向きはだいたい同じになります。これは全体として同じ方向に回転する原始太陽系円盤の中で微惑星同士が衝突して惑星が形成されるからです。
原始太陽系円盤の密度が均一だとすると、外側からぶつかってくる微惑星の方が、内側からぶつかってくるものよりも多いのです。外側からの衝突は公転と同じ向きの自転を生み出す力となります。そのため、自転はおおむね公転と同じ向きになります。
ただし、原始太陽系円盤の密度にばらつきがあった場合、逆向き自転も起こり得ます。
金星の自転の向きが公転と逆向きなのは周囲のガス分布に密度のゆらぎがあったからかもしれません。
しかし、これは確率としては低いため、最初は他の惑星と同じ向きに回っていたのが何らかの外力によって逆向きになったと考えた方が自然です。
最も可能性の高いのが天体の衝突です。他の天体との衝突によって金星の自転軸が反転したと考えられます。
また、金星は太陽に近いので、太陽からの潮汐力による影響も考えられます。太陽からの潮汐力は惑星の自転を遅くする働きがあります。金星の濃密な大気が潮汐力により変形することでその効果を増幅させます。
惑星の自転速度が速い場合自転軸の向きは安定していますが、自転がゆっくりになると自転軸は不安定になります。金星の自転が遅くなったために自転軸の方向が揺らいで、結果として自転方向が反転してしまったのかもしれません。