6カ月の隔離生活で「南極訛り」が生まれていた!
言語には同一の言葉であっても、地域ごとに異なるアクセントで発声されるという現象が存在します。
これは一般的に「訛り」と呼ばれるもので、これまでの研究において限定されたコミュニティ内でのコミュニケーションによって発生し、その後コミュニティ全体で共有されるようになると考えられています。
この新しいアクセント形成を理解するためには、非常に初期の段階において誰が誰とどのくらいの頻度で話すかが重要であると考えられていますが、通常の社会の中では変数が多すぎて検証することができずにいました。
そこで今回、独ルートヴィヒ・マクシミリアンズ大学ミュンヘン(LMU München)は南極基地という限定的なコミュニティの中で、新しいアクセント形成、つまりは「訛り」の形成の初期段階を確認できるか検証してみることにしたのです。
この調査は2017〜2018年にかけて、南極半島の西岸・アデレード島にあるイギリス南極研究所のロセラ研究所に滞在する26名のクルーたちを対象に実施されました。
人種はアメリカ人、アイスランド人、ドイツ人、スコットランド人、ウェールズ語を第一言語とする話者などで構成され、全員英語が話せます。
実際の発音調査に参加したのは、このうちの11名(21〜46歳、男性7名、女性4名)です。
彼らは南極に行く前の2017年9月に最初の発音調査を受け、2018年3月からロセラ研究所に現地入りしています。
11名の被験者を含むクルーたちは2018年3月〜8月までの約6カ月間を南極で過ごし、少人数で閉鎖的な生活を続けました。
その一人であるマーロン・クラーク(Marlon Clark)氏は、南極での生活について「衛星電話は高いので家族や友人と連絡を取ることはほとんどなく、仲間内だけで一緒に働いて、食事をし、交流をしていました」と話しています。
実際の発音調査は、半年の滞在期間のうちに6週間おきに計4回行われました。
調査は基地内の静かなスペースで実施され、被験者はコンピューター画面にランダムに表示される28個の単語を一つずつ読み上げ、それを何度か繰り返し、録音します。
各セッションは約10分間です。
単語に含まれるのは「フード(Food)」「コーヒー(Coffee)」「ディスコ(Disco)」といった日常的に使っているものがほとんどです。
これをLMUミュンヘンの音声学研究チームが分析したところ、いくつかの単語にわずかな発音の変化が生じていることが分かりました。
例えば、11人の被験者は「フロー(flow=流れ)」や「ソウ(sew=縫う)」などの単語の「ou」のアクセント位置を、南極に行く前に比べて、声帯のより前方で生成するようになっていたのです。
これは通常の英語にはない彼ら独特の新しいアクセントで、「南極訛り」と表現できるものでした。
研究主任のジョナサン・ハリントン(Jonathan Harrington)氏は、6カ月という期間は長くないにもかかわらず、発音の変化が見られたのは驚くべきことと説明しています。
一方で、南極にいた本人たちは自身の発音が変化していることには気づいていなかったという。
また興味深いことに、南極に滞在したクルーたちは仲間内だけで通じる”スラング(俗語)”のようなものも発明していたといいます。
クルーの一人であるクラーク氏によると「例えば、ナイス・デイ(nice day=いい天気だ)をディングル・デイ(dingle day)という奇妙な言い回しをするようになった」という。
これは普通の英語話者にも意味のわからない言い方だといいます。
チームはこの調査報告について、地域ごとの方言が誕生するプロセスの理解につながると述べました。