絵を描いて回復を祈っていた江戸時代
それでは江戸時代の人は、どうやって麻疹に向き合っていたのでしょうか?
江戸時代の人々は、「はしか絵」と言われている浮世絵を手に入れることによって麻疹への不安に立ち向かっていました。
はしか絵には麻疹の治療にいいとされているものや逆に悪いとされているものありとあらゆる麻疹などに対する情報が書かれています。
例えば「麻疹を軽くする方法」というはしか絵には麻疹に効くおまじないとして「タラヨウの葉っぱを一枚とって、麻疹除けの短歌を書いて、川に流す」という方法が描かれています。
また「痘瘡・麻疹・水痘」 というはしか絵には、療養方法について、「麻疹を治すためにはよく栄養を取ればいい。そうすれば全快するだろう。ただし鶏肉や卵などは食べてはいけない」と書かれているのです。
さらに「はしか童子退治図」というはしか絵には神様の指示のもと顔や身体に赤い発疹のある麻疹童子を馬屋のたらいや角樽、屋形船などが取り押さえようとし、薬袋がこれを止めようとしている姿が描かれています。
なお馬屋のたらいは江戸時代において麻疹除けになると言われており、麻疹の退治を願う人々の思いを反映させています。
しかし絵の中でたらいと一緒になって麻疹童子を取り押さえている酒樽は麻疹流行時に「酒を飲んではいけない」と言われて経済的な打撃を受けた居酒屋、屋形船は麻疹流行時に売り上げの大幅に落ちた屋形船屋を表しており、また薬袋は麻疹流行時に治療薬が飛ぶように売れた薬屋を表していると言われています。
そのことからこのはしか絵は単に麻疹の治癒を願うだけでなく、麻疹の感染拡大を巡る様々な立場の人々の思惑を風刺した風刺画でもあるでしょう。
なおこのようなはしか絵は、麻疹から回復した場合はこの絵が新しい感染源にならないように直ちに捨てられました。そのようなこともあって、はしか絵は他の浮世絵と異なって現在あまり残っていません。