生殖器を犠牲にして追加の肢を作成する
現在の四足動物の肢と生殖器がどのようにして発展してきたかについて、興味深い発見がありました。
これらの部分は、動物が住む環境に合わせて、効率よく移動したり、交配したりするために、多様な形に進化してきました。
新たに行われたマウスを使った実験では、肢と生殖器が、遠い昔の共通の起源から派生していること、さらに生殖器の元となる細胞にも、肢を作る能力をまだ持っていることがわかりました。
脊椎動物の体の作り方には、とても興味深い仕組みがあります。
体は頭から尾に向かって少しずつ作られていきますが、その過程には2つの大きな変わり目があります。
最初の変わり目では、頭の部分から体の中心部にかけての発達が始まり、生きていくうえで重要な機能を持つ多くの器官が作られ始めます。
次に、体の中心部から尾の方へと移り変わり、尾の発達が始まります。
この時、体の構造が大きく変わり、新しい細胞が特定の場所に移動して、体を伸ばしたり、器官を作ったりします。
例えば、神経系を作る細胞は、体の中央部から尾の方へ移動して、神経系をさらに発達させます。
また、血管を作る細胞は、最終的には足や体の周りの組織を形成することに関わっています。
消化器系や排泄系の出口部分を作る細胞は、最終的には直腸や膀胱、尿道の形成に役立ちます。
興味深いことに、足の発達と生殖器の発達は、制御の仕方が似ていることが分かっています。
足と生殖器が発達過程で密接に関連していることを示しており、実際に一部の動物では足と生殖器が共通の起源を持っている可能性があるのです。
哺乳類では、足の発達と生殖器の発達が別々になることで、足と外生殖器が形成されるようになりました。
一部の動物でペニスが左右の2本に分かれているのも、足との関連性があるのかもしれません。
そこで今回グルベンキアン科学研究所は、マウスのDNAを操作してTgfbr1と呼ばれる遺伝子の働きを阻害してみることにしました。
Tgfbr1は胚発生に関する沢山のシグナル伝達にかかわる受容体タンパク質の1つであり、この遺伝子の働きを削除することで、マウスの体がどのように変形してしまうかを調べることが可能になります。
ただTgfbr1は心臓形成に重要な役割を担っていることが知られており、受精卵の段階で操作してしまうと、胚発生が進まなくなってしまいます。
そこで研究者たちは体の後半部分でのみ条件付きでTgfbr1を不活性化することで、その後の手足の形成への影響を調べてみました。
すると驚くべきことに、外生殖器が消滅して代わりに追加の肢が出現した6本肢となることが判明します。
またTgfbr1の阻害には他にも、体表の形成異常を引き起こし、内臓器官が体外に露出してしまう変異もみられました。
骨格を分析したところ、新たに出現した脚は後肢としての特性を持っていることが判明。
しかしなぜTgfbr1を操作すると単に脚が増えるだけでなく、生殖器の喪失が起こるのでしょうか?