生殖器と後肢の起源は同じ
なぜTgfbr1を操作すると生殖器が後肢になってしまうのか?
答えを得るため研究者たちは生殖器になる細胞と後肢になる細胞の動きを注意深く観察しました。
すると通常のマウスではある段階に来ると排せつ器官周辺の細胞(中胚葉)のアイデンティティーが変化して、体の後方へ移動することで生殖器に変化するスイッチが入ることが判明。
またこの移動が行われることで、生殖器になる細胞と後肢になる細胞が別々の運命に入ることを可能にしていました。
しかしTgfbr1が操作された変異マウスでは、この排せつ器官周辺の細胞の運命が変化して後肢に組み込まれてしまい、追加の脚になっていることが示されました。
なお興味深いことにヘビやトカゲなどでは位置関係が逆となっており、後肢となるはずの細胞が一対の外生殖器に変化することが知られています。
(※ヘビのペニスは足のように左右に伸びています)
研究者たちはヘビの場合、本来は後ろ肢になるものが生殖器になった可能性があると述べています。
さらにTgfbr1がDNAに対してどんな制御を行っているかを調べたところ、興味深い事実が判明しました。
私たちやマウスの体では、肢や生殖器を作るためにさまざまな信号が発せられ、正しい位置に正しい器官が設置されるようになっています。
一方でTgfbr1はそれら信号の調節因子がDNAにアクセスできる場所を決定する役割があることが示されました。
つまりTgfbr1には調節因子がアクセスできるエンハンサー(調節領域)とアクセスできないエンハンサー(調節領域)を決定していたのです。
そして後肢と生殖器は同じ起源をもつもののTgfbr1が信号を適切に割り振ることで、別々の器官に変化していったのです。
Tgfbr1の阻害は、この精緻な信号割り振りシステムを混乱させ、結果として生殖器になるハズだった部位を追加の後肢に変えてしまいました。
研究者たちは今後、Tgfbr1が肢と生殖器だけでなく、免疫機能などもっと幅広い調節に関与している可能性があると述べています。