かつお出汁で「赤色のミドリムシ」が誕生!
今回の実験では、適切な培地と光条件下でユーグレナが赤色化するかどうかを検証しました。
このアプローチの仕組みは非常にシンプルです。
ユーグレナは光に長時間さらされると光ストレス反応を引き起こします。その過程で光から身を守るために、周囲の栄養素を使いながら新たな分子を産生するのです。
ここでチームはかつお出汁の栄養素でカロテノイドの産生が促されるのではないかと予想しました。
実験では、独立栄養培地(※)である「CM培地」、従属栄養培地(※)である「KH培地」、かつお出汁を使った「BS培地」の3つを用意。
そこにユーグレナを入れて、さまざまな波長の光を当てて様子を見ました。
(※ 独立栄養とは、植物のように光や二酸化炭素を使い自ら栄養素を作ることで、こうした生物の培地には外部からの有機分子が添加されません。
従属栄養とは、動物のように外部にある有機分子を食べて栄養素を得ることで、こうした生物の培地にはビタミンやミネラルなど、さまざまな有機分子が添加されます。)
その結果、かつお出汁を含むBS培地に強い赤色光(605〜660nmの波長)を照射した条件で、最もユーグレナの赤色化が進むことが明らかになりました。
チームはどんな成分が赤色化を促したのかを特定するため、かつお出汁に多く含まれるヒスチジン(必須アミノ酸の一種)だけを添加した培地、魚介類のうま味成分である5′-リボヌクレオチドだけを添加した培地、さらに煮干し・イカ・桜エビ・椎茸の煮出し汁での培養も実施。
しかし、いずれの培地でも赤色化が見られなかったことから、これは単一の成分ではなく、かつお出汁に含まれる色々な栄養素が組み合わさってユーグレナの赤色化を引き起こしていることが示されました。
そして最も重要な点として、ユーグレナの赤色化は細胞内のカロテノイドが増加しているからだということが確かめられました。
さらに通常のユーグレナの培養条件では生成されない「キサントフィル(カロテノイド類の一種)」も生成されていたのです。
以上の結果から、かつお出汁と赤色光を用いた培養方法により、カロテノイドを多量に含むユーグレナを効率的に得られることがわかりました。
しかも、この培養方法は遺伝子組み換えをともなわないことから、安全な食品利用が可能と考えられています。
研究主任の山下 恭平(やました・きょうへい)氏は、ユーグレナを赤色化する試みにおいて、「さまざまな食品と光条件を組み合わせる試行錯誤の結果、重要な成分として日本の伝統食材であるかつお出汁が見出されたことは、驚きとともに、大変うれしく思いました」と話しています。
今後はこの”赤色ミドリムシ”を活用した新たな健康食品の開発が期待できるでしょう。