タイルの石材「トラバーチン」には、化石が含まれている
「床タイルから人間の顎骨が見つかる」という事例は、多くの人にとって衝撃的ですが、この投稿を見た古人類学者たちにとっては、そこまで驚くべきことではなかったようです。
その理由は、タイルの種類にあります。
タイルには、セラミックや石材、セメント、大理石など様々な材料が用いられます。
その中には、粘土状の原料を特定の寸法に押し固めて作られたものや、天然で採掘される石をタイルの形に切り取ったものがあります。
そして今回、歯科医の両親の床タイルに用いられたのは、「トラバーチン」と呼ばれる石灰岩の一種です。
石材業界では、このトラバーチンも「大理石」にカテゴライズされることがありますが、その特徴は異なります。
大理石は、石灰石が地中で熱と圧力を受けて再結晶化したものです。
一方、トラバーチンは石灰石が湧水・地下水などで溶けて移動し、再沈殿して出来上がったものです。
大きな地圧で押し固められることもないため、スカスカの多孔質になります。
トラバーチンは天然温泉の近くに形成されることが多く、現代でも比較的短期間で形成されることもあるようですが、商業目的で使用されるトラバーチンの多くは、数十万年かけて形成された堆積物から採取される傾向があります。
実際、アメリカのウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin-Madison)に所属する古人類学者のジョン・ホークス氏は、次のように述べています。
「トラバーチンには化石が含まれることが多いです。
その多くは、湧水に生息する藻類、植物、小動物であり、特に軟体動物や甲殻類の化石が見られます。
そしてもっと大きな動物の化石が見つかることもあり、人間も例外ではありません。
よく知られている人類の化石のいくつかは、トラバーチンから発見されてきたのです。
そしてこれらの発見のほとんどは、建設用の採石の際にもたらされました」
つまり、今回のケースでは、トラバーチンを採石場から切り出す際に、そこに含まれている人間の化石が、途中で発見されることなくタイルにまでなったということなのです。