110年ぶりのユリの新種
スカシユリ類(ユリ科ユリ属)は上向きでオレンジ色の花をつける植物で、これまで4つの分類群が認められてきました。
スカシユリ類は夏に美しいオレンジ色の花を咲かせることで知られており、観賞価値が高いことから、200年以上前から野生種や国内で作られた園芸品種が国外へ輸出されてきました。
ただ既存の分類方法は曖昧であり、スカシユリ類の多様性を正確に反映したものではありませんでした。
そこで今回、大阪公立大学と京都大学などの研究者たちは、改めてスカシユリの標本を採取し、物理的な形態とDNAの両方を綿密に分析してみることにしました。
すると驚いたことにスカシユリ類は、これまでの倍の8つの分類群にわけられることが判明しました。
またその中の1種「ミナミスカシユリ」は新種と言えるほど他と異なっていることがわかりました。
日本産ユリ属で新種が確認されたのは1914年に牧野富太郎博士が記載したタモトユリ依頼、110年ぶりとなります。
(※牧野富太郎博士は「日本植物学の父」とも呼ばれておりNHK朝ドラ「らんまん」のモデルともなりました。牧野氏は94歳で死去する直前まで日本全国の膨大な植物標本の作製に取り組ん降り、命名植物は1500種を超えています。)
新たに発見されたミナミスカシユリは本州(茨城県〜静岡県)と伊豆諸島の海岸に生育し、葉の先端が爪状に曲がるという面白い特徴をもっています。
新認識の8つの分類群の内、7つは日本固有植物で、海岸から山地まで各環境に適応しており、独自の形質を進化させています。
これらは複雑な過程を経て分化してきたと考えられ、この研究が種分化研究の手がかりになることが期待されます。
論文の第一著者である渡辺誠太氏はプレスリリースにて「こんなに花が目立つユリでも、形態を詳しく見ていくと似て非なるものがあり、DNAの力を使ってより明確にすることができました。一見するとシンプルな植物のため、個々の差が見落とされてきたのかもしれません。本研究を通して形態観察の重要性を改めて感じました」と述べています。