笑顔にはどんな神経回路が使われているのか?
私たちの脳はさまざまな表情を作り出す上で、異なる神経回路を使っています。
例えば、感情から発した本物の笑顔は「扁桃体(へんとうたい)」や「視床下部(ししょうかぶ)」を含む大脳辺縁系にルーツがあります。
扁桃体は感情反応の処理において主要な役割を果たし、視床下部も情動に関連する行動を調節する働きをします。
つまり、喜びや楽しみのポジティブ感情の発生が最初に扁桃体や視床下部を活性化させるのです。
そうした感情反応は次いで「錐体外路(すいたいがいろ)」で処理されます。
この脳領域は、私たちの意思とは無関係に発生する不随意運動を調節して、表情に変換する場所です。
要するに、最初に発生したポジティブ感情が無意識的で自然な笑顔を作り出すのです。
これが本物の笑顔が生じる脳の神経回路のルートとなります。
その一方で、意識的な作り笑いはポジティブ感情に端を発するものではないので、このような大脳辺縁系や錐体外路は使われません。
その代わりに、大脳皮質の一部で、体の筋肉収縮を制御する「運動皮質」から始まり、先とは真逆の、意識的な身体運動(=随意運動)をつかさどる「錐体路」を活性化させます。
こうした神経回路を通ることで表面的な表情を作ることはできますが、そこで作り出された笑顔に真の感情反応がこもることはありません。
作り笑顔は単なる自発的な運動でしかなく、脳の感情中枢が関わることはないのです。
このような神経回路の違いが、先に見た「本物の笑顔」と「作り笑顔」に使用される筋肉の違いへとつながることになります。
以上のプロセスが、カメラの前で笑顔がぎこちなくなってしまう脳科学的なメカニズムです。
また研究者らはもう一つ、作り笑顔がぎこちなくなってしまう別の要因として「自意識の高まり」も挙げています。
これは例えば、「髪型が変になっていないか」「メイクが崩れてないか」「写りが良くなる角度になっているか」などと、自分の外見を過度に意識してしまうことです。
これにより不安やストレスが高まってしまい、それが表情のこわばりや笑顔のぎこちなさにつながってしまうのです。
このように様々な要因が重なることで、カメラに自然な笑顔を向けることが難しくなるのでしょう。