既存薬のなかに忘れた記憶を思い出させるものがある
長い時間がたつと、学習したはずの記憶を思い出せなくなることがあります。
例えば、小学校のクラスメートの名前や、昔に訪れた場所の詳細など、思い出すのに苦労することがあるでしょう。
また、加齢や神経変性疾患、精神疾患によって、この忘却のプロセスがさらに加速し、日常生活の質が大きく低下することもあります。
しかし、興味深いことに、一度忘れたと思った記憶も、特定のきっかけで突然思い出せることがあります。
たとえば、昔の友人からの手紙や、昔聴いた音楽を耳にしたとき、その時の記憶が鮮明に蘇ることがあります。
これは、記憶の痕跡が脳内に残っており、たとえ忘れたと思っていても、適切な刺激があれば再びその記憶が活性化されるからです。
最近の研究によると、脳内のヒスタミンを増やす薬によって、忘れてしまった記憶が再び思い出せるようになることが示されました。
北海道大学の研究チームは、ヒスタミン神経系を刺激する薬物をマウスとヒトに投与し、忘れた記憶をスムーズに思い出せるようになることを発見しました。
マウスを使った実験では、上の図のように、1カ月後になっても思い出せる個体が多くなりました。
また人間を使った実験では、20代の男女38人に「ベタヒスチンメシル酸塩」という薬を投与し、1週間前に見せた写真の内容を思い出させるテストを行いました。
すると実験の30分前に通常の処方量の約10倍の薬を飲むと、平均成績がわずかに上がったことが示されました。
特に、服用しないときの正答率が約25%と低かった人は、服用すると50%程度まで向上し、大きな効果があることが示されました。
「ベタヒスチンメシル酸塩」は元々めまいの治療薬として使われていましたが、服用すると脳内でヒスタミンが大量に放出されることが知られており、これが記憶の思い出し能力を増強すると考えられます。
(注意:ベタヒスチンの服用にあたっては医師や薬剤師の指示に従ってください)
しかし、これまでの薬物にはさまざまな作用点があり、脳のどの細胞の活性化が記憶の思い出しに重要であるかは明らかではありませんでした。
そこで今回、名古屋市立大学の研究者たちは脳内のどの細胞が思い出し能力の強化に重要な役割を果たしているかをマウスを使った実験で調べることになりました。