マルチタスク時に働く脳領域を特定!
今回の実験で採用したマルチタスクは、運動タスクと認知タスクを同時に行うものです。
まず運動タスクは、聞き手じゃない方の手(今回は全員左手)でペンを持ち、電子パッドの上にぐるぐるの渦巻きをきれいに描く課題です。
一方の認知タスクは、音声で順番に聞かされた数字を一つずつ暗算で足していき、連続して答え続ける課題です。
実験では、右利きの健康な若年成人34名(18〜30歳)を対象とし、運動タスクと認知タスクをそれぞれ単独で行った場合と、マルチタスクで行った場合で成績を比較。
それと並行して、近赤外線分光法を用いた非侵襲的(体を傷つけない安全な)方法で、タスク実行中の脳活動をリアルタイムで記録しました。
その結果、マルチタスクを行った場合、それぞれの課題を単独で行った場合に比べて、認知および運動タスク両方の成績が下がったことが確認されています。
要するに、マルチタスクで頭がパンクしそうになっている状態(二重課題干渉)を実験下で再現することができました。
そして最も重要な点は、パンクしそうな状態の脳活動を明らかにできたことです。
参加者の脳内データを見てみると、マルチタスクを行ったときに「右前頭葉」の活動が有意に増加していることが特定されました。
右前頭葉は運動機能のほか、作業記憶や視覚的な空間認知、注意力などに関わることが知られています。
それに加えて、右前頭葉から右頭頂皮質への情報伝達が増加していることも明らかになりました。
さらにこの情報伝達が強かった参加者ほど、マルチタスク時に課題の成績が大きく低下していたのです。
これらは認知および運動タスクを単独で行うときには見られませんでした。
この結果について研究者は「(右前頭葉から右頭頂皮質への)情報伝達の増加は、マルチタスク時の過剰な認知負荷がかかっていること(=マルチタスクで頭がパンクしそうなときの脳活動)を示すバイオマーカーである可能性を示している」と説明しました。
つまり、この情報伝達が強い人ほどマルチタスクで頭がパンクしやすく、情報伝達が弱い人ほどマルチタスクが得意な人と言えるのかもしれません。
今回の知見は、二重課題干渉の根底にある脳の神経メカニズムを明らかにする上で、新たな洞察を与えてくれるものです。
チームはこの知見について、認知機能の低下をともなう精神障害や脳障害の治療、および一般人の認知トレーニングにも役立つかもしれないと期待しています。