ジェットだけで天の川銀河の140倍!
今回の観測はヨーロッパの電波望遠鏡である「LOFAR」によって行われました。
LOFAR(Low Frequency Arrayの略称)はその名の通り、低周波電波を観測するために建設された望遠鏡です。
オランダを中心にドイツやイギリス、スウェーデン、ポーランドなど、ヨーロッパの複数カ国にアンテナが設置され、その広域ネットワークを組み合わせることで、人間の目には見えない低周波電波を高解像度で観測することができます。
そしてLOFARによる観測の結果、地球から約75億年離れた銀河の中心に超大質量ブラックホールの存在を確認しました。
しかし真に驚くべきは、そのブラックホールの中心から両極に向かって放射されたジェットの大きさでした。
なんとジェットの長さは端から端までを含めて約2300万光年にも達していたのです。
これは地球が存在する天の川銀河を140個以上も並べた長さに相当し、過去に見つかったブラックホールジェットの中で史上最大のものであることが明らかになりました。
これを踏まえて研究者たちは、この超巨大ジェットをギリシャ神話に登場する巨人族の一人に由来して「ポルピュリオーン(Porphyrion)」と命名しています。
こちらはLOFARで撮影されたポルピュリオーンの観測データです。
中央にポツンと光る点がブラックホールの存在するホスト銀河ですが、ポルピュリオーンのジェットはそれを遥かにはみ出る長さにまで成長していることがわかるでしょう。
ブラックホールにジェットが発生する正確なプロセスについては完全に解明されていませんが、基本的には次のように考えられています。
ブラックホールはその強烈な重力によって周囲のチリやガスを吸い寄せ、周囲に回転する「降着円盤」を作り出します。
降着円盤の中ではチリやガスの激しい摩擦によってプラズマ化しています。電荷を持った粒子が高速で回転している状態になるため、極方向に強力な磁場が発生するのです。
この磁場に沿ってブラックホールに吸い寄せられた物質の一部は、両極方向に吹き飛ばされることになるのです。
ポルピュリオーンのジェットに関しては、ホスト銀河の質量が天の川銀河の約10倍もあるため、周辺から異常な量のチリやガスが供給され続けた結果、ここまで巨大化したのではないかと推測されています。
ポルピュリオーンのジェットの総出力は太陽エネルギーの数兆個分に匹敵するといいます。
しかし一方で、ポルピュリオーンには研究者たちがそろって首を傾げる大きな謎がありました。
それはジェットの巨大さに反して、あまりにも完璧な直線を描いていたことでした。