呼吸を止めさせない「身体の安全システム」たち
カナダのウィンザー大学(University of Windsor)運動学部に所属するアンソニー・ベイン氏は、呼吸に関連した安全システムについて説明しています。
彼によると、その安全システムの1つは、大脳皮質の中でも特に運動の制御や実行と関係している領域にあります。
この脳領域は、体の様々な部位からの情報を受けて、私たちが呼吸をしていないことを感知できます。
そして、脳幹の一部である「延髄(えんずい)」へと信号を送ります。
この延髄は哺乳類の呼吸運動を支配する神経中枢「呼吸中枢」であり、呼吸筋に運動の命令を送ります。
具体的には、大脳皮質からの警告信号を受けて、肺を膨らませたり縮めたりする「横隔膜」や、その横隔膜と連動して呼吸運動に関わる肋骨と肋骨の間の筋肉「肋間筋」を制御するための命令を出すのです。
2つ目の安全システムは、脳幹の下方にある「プレボッツィンガー複合体」と呼ばれる脳領域です。
これには呼吸リズムを自発的に生成する役割があり、たとえ息を止めていたとしても、一定のリズムを刻み続けます。
つまりこれは、「脳内にある呼吸のペースメーカーのような存在」であり、私たちが呼吸をしていない時でも動き続けて、私たちが呼吸をするように促しています。
3つ目の安全システムは、頸動脈と大動脈に存在する「化学受容器」です。
これは血液の化学組成を感知する細胞群であり、体内の酸素と二酸化炭素のレベルを監視(特に二酸化炭素の変化に敏感)しています。
私たちが息を止めると、体内の酸素レベルが低下し、二酸化炭素レベルが高まるため、これらに反応して呼吸を促す信号を脳に送ります。
4つ目の安全システムは、「肺の膨張と収縮を感知する受容体」です。
これは肺の動きを直接監視しています。
私たちが息を止めることで、受容体が肺の伸縮を感知しなくなると、呼吸を促す信号を脳に送るのです。
ここまでで4つの安全システムを紹介してきました。
私たちが息を止めると、これらのうちのいずれかが異常を感知し、呼吸中枢を通して、肺に呼吸をするよう指示が出されるのです。
これらの反応は私たちの意思で制御できるものではないため、意識を失うまで息を止め続けることはほぼ不可能です。
しかし、このような安全システムが備わっているにも関わらず、それらを無視するような例外もあります。