マズいけど健康食を選べる人は「ある脳領域」が活発だった!
本調査では食べ物の選択において、「美味しさ」よりも「健康」を重視するときの被験者の脳活動を測定しています。
研究のために集められた被験者はまず、提示された一連の食べ物を「美味しさ」と「健康的かどうか」で評価し、「健康によくないけど美味しい食べ物」と「美味しくはないけど健康にいい食べ物」に分類しました。
例えば、ケーキなら前者に、ブロッコリーなら後者にというように。
そして脳活動の測定中に、画面にランダムに表示されるこれら2種類の食べ物のうち、どちらか食べたい方を選択してもらいました。
ここで被験者が「美味しくはないけど健康にいい食べ物」を選んだ場合、美味しさよりも長期的な健康を重視したことに相当します。
次に、健康的な食べ物を選ぶ際に重要な「自制心」の強さを測りました。
ここでは将来的に得られる金銭報酬を選択する課題を用いてます。
この課題では、獲得までの時間と金額が異なる2つの報酬について、どちらか欲しい方を選んでもらいました。
具体的には「今すぐに5000円をもらう」か「1年後に1万円をもらう」かのどちらかです。
ここで「今すぐ5000円をもらう」を選んだ場合は、目先の利益を優先した「衝動性」の強いタイプと判断されます。
反対に「1年後に1万円をもらう」を選んだ場合は、長期的な利益を優先した「自制心」の強いタイプと判断されます。
そして食べ物の選択における脳活動を調べた結果、「美味しくはないけど健康にいい食べ物」を選んだ被験者では、前頭前野の活動が有意に高くなっていることが判明したのです。
また金銭報酬における長期的な利益を優先した自制心の強い被験者でも、同じ前頭前野の脳活動が大きくなっていることがわかりました。
逆に目先の「美味しさ」を優先したり、「今すぐ5000円をもらう」選択をした被験者は、前頭前野の活動が弱いことが確認されています。
この結果から、目先の「美味しさ」よりも長期的な「健康」を重視して食べ物を選べる人は、前頭前野が活発なおかげで自制心が強くなっている人であることが示唆されました。
私たちの脳は「大脳」「小脳」「脳幹」の3つに大きく分けられ、全体の重さの約80%を占めているのが大脳です。
大脳には主に思考や計画、判断の機能を司る「前頭葉」があり、このうちの大部分を占めるのが「前頭前野」となっています。
前頭前野はヒトで最も発達している脳領域であり、ヒトと動物を大きく分ける場所でもあります。
前頭前野は思考や想像、記憶、判断、計画、実践といった、ヒトをヒトたらしめる知的行動に必要な認知機能を司る場所なのです。
この領域が活発だと思考力や計画性に優れ、先の実験で示されたように、長期的な利益を見越して自制心を持った行動を取ることができます。
反対に、前頭前野の活動が衰えていると、物忘れが増えたり、感情的になったり、やる気が落ちてキレやすくなるなどが指摘されています。
食べ物の選択は動物にとっても大切ですが、野生下にいる動物たちが長期的な健康を見越して、目先の美味しい獲物をスルーすることは基本的にあり得ません。
長期的な健康を考えて食べ物を選べるのはヒトに特有の行動です。
そう考えると、ヒトで最も発達している「前頭前野」が健康的な食べ物のチョイスに関与しているのは納得できることでしょう。