なぜ生成される並行世界には偏りがあるのか?
なぜ生成される並行世界に偏りが生じるのか?
この問題を解決できれば、多世界解釈へ向けられた疑いの目が減り、主流となっている「コペンハーゲン解釈」に対して一矢報いることができるはずです。
そこで今回バルセロナ自治大学の研究者たちは、人間でも実行できるような粗い観測を行った場合に、曖昧な量子状態がどうなるかを調べることにしました。
量子力学における観測は、精密かつ一瞬で行われる正確な観測と、大まかな範囲に対してそれなりの観測時間をかけて行われる粗い観測が存在します。
今回の研究では、まず最初に2つの物体(AとB)の間で行われる熱移動を多世界解釈にもとづきシミュレートを行いました。
すると物体の数が少ない場合、日常の常識とかけ離れた、時間の矢が反転してしまう奇妙な世界線が出現しはじめました。
この結果は、観測する物体が少ない場合、古典物理が優勢なマクロな世界と摩訶不思議な世界が「公平」に出現することを意味します。
実際、量子世界の奇妙な実験結果は、単一の粒子や少数の量子ビットなど少ない物体の数に対して観測が行われたものがほとんどになります。
一方、私たちの認識する世界は無数の粒子が集まって構成されています。
たとえば1円玉に含まれるアルミ原子の数は222垓個に及びます。
そこで研究者たちは想定する物体の数をどんどん増やし、再び分岐する世界線のシミュレートを行いました。
結果、物体の数が増えるにつれて、奇妙な世界線に飛ぶ確率が指数関数的に減少し、数千個に達する頃には、ほぼ古典的な物理法則に従う世界線しかみられなくなりました。
多数の物体が存在する場合、物体同士の相互作用が多発して、ある種の相互監視や平均化が進み、全体が摩訶不思議な世界線に移行するのが難しくなったと考えられます。
1人の体操選手個ならば、ウルトラプレイをみせることができても、数千人の人間が手をつないだ状態(相互作用した状態)で同じことをするのは不可能なのと近いと言えるでしょう。
この結果は、多世界解釈が正しかった場合でも、私たちの認識できるマクロな世界は通常運転を続けていけることを示しています。
つまり私たちの認識する世界は、多世界解釈と互換性があるのです。
研究者たちは論文の最後に、多世界解釈では「起こり得ることは全て起こる」としばしば言われることについて、必ずしも真実ではないと結論しています。