タバコの煙で片頭痛のリスク増!特に「女性」が注意
実験では受動喫煙が片頭痛に与える影響を調べるため、タバコの煙にさらしたマウスと煙にさらさなかったマウスの脳を比較しました。
特に片頭痛の指標として調べるのは「CSD(皮質拡延性脱分極、Cortical spreading depolarization)」という現象です。
CSDとは、大脳皮質における神経細胞の脱分極(だつぶんきょく)が同心円状に2〜5 mm/分で広がっていく現象を指します。
脱分極とは、細胞内の電荷分布が変化し、細胞内のマイナス電荷が細胞外よりも少なくなることです。
つまり、細胞内の電荷がプラス方向に変化していく現象を指します。
これまでの研究で、CSDが発生すると血管の拡張が促され、片頭痛を起こしやすい状態になることがわかっていました。
ヒトにおいても片頭痛の前兆期にCSDが生じており、このCSDの発生しやすさが片頭痛のなりやすさの指標となっているのです。
またCSDは塩化カリウム(KCl)を大脳皮質へ滴下することによって誘発することができます。
そこで今回の実験では、マウスの大脳皮質に低濃度から高濃度の塩化カリウムを順に滴下していき、どの濃度でCSDが発生するかという「閾値(いきち:ここでは片頭痛を起こすのに必要な最低量の塩化カリウムを指す)」を調べてみました。
具体的には低濃度の塩化カリウムでCSDが発生するほど、つまり「閾値」が低いほど、片頭痛の感受性が高い(片頭痛になりやすい)と評価できます。
実験ではオスとメスのマウス25匹ずつ、生後8週齢(マウスはオスが生後8週齢で、メスが生後5週齢で性成熟に達する)を対象としました。
これを2つのグループに分け、一方をタバコの煙に1時間さらし、もう一方を何もせずに放置します。
その後、濃度の異なる塩化カリウムを大脳皮質に滴下したところ、オスマウスではタバコの煙の有無に関わらず、CSDの発生閾値に有意な差はありませんでした。
ところがメスマウスを見ると、タバコの煙にさらされたグループは何もせずに放置されたグループに比べて、低濃度の塩化カリウムでもCSDが発生するようになっていたのです。
このことはメスマウスが受動喫煙にさらされたことで片頭痛の感受性が高くなっていたことを示す証拠です。
この結果はヒトとも密接に関連すると考えられます。
というのも実は、ヒトにおいても片頭痛が特に発生しやすいのは「20〜40代の女性」であり、そのリスクは男性より3.6倍も高いことがわかっているからです。
マウスのメスやヒトの女性で片頭痛が起きやすい理由には、いくつかの要因が関与しています。
1つは「エストロゲン」などの女性ホルモンの作用です。
エストロゲンは脳の興奮性に影響を与え、片頭痛を起こしやすい状態にしていると指摘されています。
女性は月経周期などでエストロゲンを含むホルモンバランスが定期的に乱れるため、男性よりも片頭痛を起こしやすいのです。
もう1つは「神経系の感受性」の問題です。
過去の研究では一般に、女性の神経系の方が男性のそれよりも環境ストレスや外部刺激に敏感であることが示されています。
こうした感受性の高さが女性に片頭痛を誘発させる引き金となっています。
おそらく、今回の受動喫煙に関しても同じ理由でメスマウスの方がタバコの煙に敏感に反応してしまったのでしょう。
以上の結果はまだヒトで確認されていないものの、受動喫煙が特に女性において片頭痛リスクを高める可能性があることを十分に示すものです。
片頭痛をうまく回避するには、適切な睡眠や運動、食事といった生活習慣の改善が進められてきましたが、これに加えて「タバコの煙」を回避することも意識した方がいいかもしれません。
たいてい喫煙者がマナーを守らないことから生じてしまう受動喫煙を回避できるわけないと思います。