患部の動きに応じて電気刺激を与える「電気縫合糸」
縫合とは特別な針と糸を用いて切り傷をふさぐ治療法であり、これによって傷が治るまでの痛みを和らげ、治癒を促進したり、感染を防いだりします。
しかし、縫合してすぐは、傷口が完全には塞がっておらず、患者の無茶な動きによって再び開いてしまうこともあります。
だからこそ縫合の後は、しばらく安静にするよう求められます。
とはいえ、どんな患者でも、体を完全に動かさないことは難しいでしょう。
日常的な動作は避けられず、それによって縫合がもたらす良い効果が低減する場合があるのです。
このような課題に目を向けたワン氏ら研究チームは、「患者が動く」ことをあえて利用した新しい電気縫合糸を開発しました。
この電気縫合糸の技術の根底にあるのは、「電気刺激によって傷の治癒が促進される」という事実です。
例えば、マンチェスター大学(University of Manchester)の2015年の研究でも、電気刺激によって新しい血管の形成が促進され、皮膚の傷の治癒が早まると報告されています。
この効果を縫合糸に組み込むなら、傷の治癒を早める縫合糸を生み出すことができるはずです。
そこでワン氏ら研究チームは、複数の層から作られた電気縫合糸を開発しました。
縫合部分の組織が動くと、この縫合糸の中間層と外層が擦れるようになっており、この動きが電荷を発生させるのです。
そのため患者が動く度に、縫合糸の周辺の組織に対して電気刺激が与えられ、治癒を促進してくれます。
しかもこの電気縫合糸は、生分解性ポリマーとマグネシウムでつくられており、医師は抜糸する必要がありません。
では、この新しい電気縫合糸は、傷口の治癒をどれほど早めてくれるのでしょうか。