従来の「重力による吊り下げ点滴」の限界
点滴は、水分や栄養を補充したり、継続的に薬剤を投与したりしたい時に採用されます。
熱中症、下痢や嘔吐などが原因で多くの体液を失った場合、自分で薬や水を飲むことができない場合、抗がん剤など急速に投与すると副作用が起きる場合に活躍しています。
このように、点滴は一定の流量を維持しながらゆっくりと輸液を投与できるため、古くから利用されている治療法です。
点滴治療が広く普及し始めたのは、1832年頃コレラの流行時に脱水症状を解消するためだったと言われますが、この当時の点滴は医師や看護師が注射で慎重に注入していくというもので、現代のような吊り下げ式ではありませんでした。
重力を利用した吊り下げ点滴が登場したのは20世紀初頭からとされています。
この方法は、輸液バッグを点滴スタンドに吊るし、重力によって生じた圧力で輸液を患者の静脈に投与します。
重力を利用した吊り下げ点滴が登場したことで、輸液の流量の調節や長時間の投与が容易になり、医療現場の効率化や患者への負担軽減が大きく進みました。
そのため非常に画期的な発明ですが、この点滴の方法は、患者の自由度が低く、どうしても移動制限が生じてしまいます。
「ちょっとトイレに行きたい」という時にも、スタンドを押していかなければいけません。
またそのような移動時にスタンドが転倒する事故リスクもあり、輸液バッグが誤って落下した場合には、血液の逆流事故が生じる恐れもあります。
こうした欠点は特に長時間の投与をする場合に問題になります。
吊り下げ点滴は細かい技術改善が続いていますが、100年近く前と基本構造が変わっていないことを考えると、これらの問題を考慮した改善があってもいいかもしれません。
そこで産総研のチョン・カーウィー氏ら研究チームは、重力に頼らない新しい点滴の形を開発することにしました。