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「吊るさない点滴」が開発される / Credit:Canva,ナゾロジー編集
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大気圧で押し出す「吊るさない点滴」を開発!治療中の移動が楽に

2024.11.23 Saturday

病気や体調不良で「点滴」を受けたことのある人なら、点滴中に動き回れないことを不便に感じたことがあるかもしれません。

特に短時間投与ではなく、24時間投与が必要な患者さんの場合は、輸液バッグを吊るす点滴スタンドと常時一緒に移動しなければならないため、トイレに行くのも大変です。

移動時に転倒するなど、点滴スタンドならではの危険も潜んでいます。

そこで国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)に所属するチョン・カーウィー氏ら研究チームは、大気圧とピストン、加圧用空気バッグを用いた「吊るさない点滴」を開発し、医療機器として登録しました。

この方法なら点滴スタンドは必要なく、輸液バッグを鞄に入れて、どこにでも持ち運べます。

点滴スタンドは流量調節装置など技術的な改良は進んでいますが、基本構造は20世紀初頭から変わらず、患者の移動制限という課題が残っていましたが、この装置はこれを解決するものになると考えられます。

研究の詳細は、2024年11月3日付の産総研の『ニュース』にて発表されました。

またこの装置の仕組みについては、2022年2023年にそれぞれ科学誌に論文が掲載されています。

「吊るさない点滴」が医療機器に https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241113_2/pr20241113_2.html
Optimum Pressurization Mechanism for a Non-Electrical Piston-Driven Infusion Pump https://doi.org/10.3390/app12178421 Measurement of the infusion flow rate of a novel non-electrically driven infusion pump in determining the influencing factors on its flow performance https://doi.org/10.1016/j.measurement.2023.113229

従来の「重力による吊り下げ点滴」の限界

点滴は、水分や栄養を補充したり、継続的に薬剤を投与したりしたい時に採用されます。

熱中症、下痢や嘔吐などが原因で多くの体液を失った場合、自分で薬や水を飲むことができない場合、抗がん剤など急速に投与すると副作用が起きる場合に活躍しています。

このように、点滴は一定の流量を維持しながらゆっくりと輸液を投与できるため、古くから利用されている治療法です。

点滴治療が広く普及し始めたのは、1832年頃コレラの流行時に脱水症状を解消するためだったと言われますが、この当時の点滴は医師や看護師が注射で慎重に注入していくというもので、現代のような吊り下げ式ではありませんでした。

重力を利用した吊り下げ点滴が登場したのは20世紀初頭からとされています。

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従来の「重力による吊り下げ点滴」 / Credit:Canva

この方法は、輸液バッグを点滴スタンドに吊るし、重力によって生じた圧力で輸液を患者の静脈に投与します

重力を利用した吊り下げ点滴が登場したことで、輸液の流量の調節や長時間の投与が容易になり、医療現場の効率化や患者への負担軽減が大きく進みました。

そのため非常に画期的な発明ですが、この点滴の方法は、患者の自由度が低く、どうしても移動制限が生じてしまいます。

「ちょっとトイレに行きたい」という時にも、スタンドを押していかなければいけません。

またそのような移動時にスタンドが転倒する事故リスクもあり、輸液バッグが誤って落下した場合には、血液の逆流事故が生じる恐れもあります。

こうした欠点は特に長時間の投与をする場合に問題になります。

吊り下げ点滴は細かい技術改善が続いていますが、100年近く前と基本構造が変わっていないことを考えると、これらの問題を考慮した改善があってもいいかもしれません。

そこで産総研のチョン・カーウィー氏ら研究チームは、重力に頼らない新しい点滴の形を開発することにしました。

次ページ大気と真空の差圧を利用した「吊るさない点滴」

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