致死システムを維持する「進化のシナリオ」
なぜ第1染色体を大小の2種類に分け、両方がなければ生き残れないようにしたのか?
研究者たちは鍵となるのは先祖型の遺伝子を持つ近縁種であると述べています。
大小の染色体からなる致死システムを持っている集団に先祖型の集団が接触した場合、その子孫は全て混合型となり、第1染色体と大きな染色体(A)と小さな染色体(B)を全て持つことになります。
しかしこの場合、本来ならば第1染色体だけ、あるいは大きな染色体(A)と小さな染色体(B)1本ずつでよかったところに、余計な染色体が加わることになります。
染色体の数が多くなると、生命の設計図となる遺伝子の数も増え、結果として生産されるタンパク質の量に影響を与えて生存に不利になることがあります。
研究者たちはこの3種類の染色体を持つ子孫が受ける「ペナルティー」の大きさを操作し、どうなるかを追跡しました。
ここで言うペナルティーとは、生存率や雌の繁殖力、雄の魅力などが含まれています。
すると3本の多すぎる染色体を持つペナルティーが50%を超えると、3本の染色体を持つ個体が徐々に排除されていき、致死システムを持つ子孫のほうが優勢になっていきました。
この結果は、致死システムを採用することで、先祖型の侵入によって自分たちの遺伝子が変化してしまうのを、保護できることを示しています。
致死システムがあることで、先祖型と異なる種として並行して生存しやすくなるのです。
また致死システムの出現は第1染色体内部の遺伝子の奪い合いというイベントが起きてから、2世代以内に確立されます。
さらにイモリの遺伝子を分析したところ、染色体内部に遺伝子の奪い合いを誘発させやすい構造(反復配列)が多数存在することが判明しました。
つまり、致死システムそのものの出現が生物にとって決して難しいことではなく、イモリにはもともと致死システムの元となる遺伝子の奪い合いを起こしやすい配列特性があり、致死システムを持つ種が出現した以降は先祖型との交雑を排除しやすくなるわけです。
ある意味で、致死システムとは先祖型と簡単に種分化ができるお手軽進化システムでもあるわけです。
ただこれの特徴はどれも致死システムの出現において短期的なメリットでしかありません。
このような短期的メリットが長期に渡る進化スケールでどれほど通用するのでしょうか?
謎を解明するため研究者たちはさらなるシミュレーションを行いました。
すると先祖型の染色体を持つ集団のサイズが500を超える条件では致死システムを持つイモリが1匹出現することが判明。
さらにシミュレーションを続けて先祖型から致死システムを持つ新種が誕生する確率を調べるため反復試行を行いました。
すると持続的な致死システムが形成される例がゼロではなく2%ほど存在することが確かめられました。
この結果は、先祖型の集団と差別化しようとする致死システムの出現は決して理不尽であり得ないことではなく、条件さえ適切ならば十分に出現可能であることを示しています。
もちろん、イモリたちの生息環境が激変して生存が困難になった場合、致死システムを持つ種は存続がより困難になるでしょう。
しかし増殖力だけが重要ならば、現在も地球は単細胞生物しか存在しない世界のままのはずです。
増殖力に多大な不都合がある種も、長年に渡る繁栄を享受し多様化も可能なのは、地球の環境が多様である証拠とも言えるでしょう。