微小重力でネコを落下させるヘンな実験
ネコの身体能力を解明しようとする取り組みは「クロノフォトグラフィー(連続写真)」の発明によって本格的にスタートしました。
連続写真は短時間に大量の写真を撮ることで、ネコが空中でどのような動きをしているのかをコマ送りで観察することができます。
パラパラ漫画みたいなものですね。
そして1894年に、フランスの科学者であるエティエンヌ=ジュール・マレー(1830〜1904)が、ネコを仰向けの姿勢から落下させ、体を反転させて着地するまでの様子を毎秒12フレームで撮影した一連の連続写真を公開しました。
実際の写真がこちら。
この連続写真はネコが空中でどのように身を翻し、4つ足で着地するのかについて理解を進めることになりました。
しかしこれで満足しないのが人間の好奇心です。
人類は1940年代〜50年代にかけて、パラボリック・フライト(放物線飛行)の効果を発見しました。
パラボリックフライト(放物線飛行)とは宇宙空間に行かずに微小重力環境を作り出す方法です。
水平飛行している航空機の機首を上げ、約45度まで上がった状態でエンジンを停止し、その後、放物線を描くように機体を自由落下させることで、機内を一時的に微小重力状態にすることができます。
これを受けて研究者たちは次のような悪魔的な発想を思いつきます。
「微小重力環境のように上下の区別がつかない状態でネコを落下させると、着地能力はどうなるのだろうか?」
そしてアメリカ空軍航空宇宙医学研究所(USAFSAM)はこの実験を実際にやってみることにしました。
1947年に米オハイオ州の上空で行われた実験映像がこちらです。
(※ 動画はこちら。音量に注意してご視聴ください)
ナレーションの説明によると、ネコたちは微小重力の中で確かに上下の方向感覚を失っているようだったと述べられています。
しかし微小重力でもネコのしなやかさを完全に奪うには至りませんでした。
ネコは方向感覚を失っているように見えましたが、それでも自分がゆっくりとどの方向に落ちていくのかは理解しており、通常の重力下と同じように身を反転させて着地していたのです。
この実験を見た方は「これが一体何の役に立つのが?」「ただネコがかわいそうなだけじゃないか」とお思いでしょう。
しかし意外にも、この実験結果はのちの宇宙飛行士の訓練に役立つことになるのです。