宇宙飛行士は「ネコ着地」を訓練させられる?
この最初の実験に続き、1957年には8匹の子猫を対象に放物線飛行を行った実験も報告されました(Journal of Aviation Medicine, 1957:PDF)。
ここで研究者は「この実験は私たち自身の好奇心を満たすためだけでなく、微小重力状態におけるネコの耳石器官(平衡感覚に関わる末梢器官)の役割を明らかにするためでもある」と説明しています。
また1958年にも米軍の戦闘機「F-94 スターファイア」に乗せられて微小重力を体験しているネコの何とも居心地悪そうな写真も公開されました。
実際の写真はこちらでご覧いただけます。
しかしこれら一連の奇妙な実験はまったくの無駄ではなく、宇宙飛行士の訓練に役立つことになりました。
たとえ微小重力下の活動であっても、宇宙飛行士はは足を滑らせて背中から地面に落下してしまう場合があります。宇宙服の背中には大きなリュックのような装置がありますが、あれは生命維持装置であり、故障してしまうと命の危険に晒されます。
そのため宇宙飛行士は背中から落下しないように訓練を行うのですが、NASA(アメリカ航空宇宙局)はネコの着地スタイルが、この訓練に応用できると考えたのです。
スタンフォード大学の研究者は1969年に発表した報告の中で「自由落下するネコの姿勢はねじれた円柱のようなものであり、そのねじれを元に戻すようにして素早く空中で体勢を立て直している」と説明しています(International Journal of Solids and Structures, 1969)。
ネコは高い場所から落下するとき、自分の身体を素早く回転させて足を下に向ける「立ち直り反射」と呼ばれる能力を持っています。
この際、ネコは回転を制御するために身体の異なる部分(例えば頭、胴体、尾)を別々に動かしますが、無重力環境で自分の身体をどのように動かすと回転や姿勢制御ができるかという訓練で、「立ち直り反射」の理解が役立つというのです。
そして現在、宇宙飛行士たちの間では実際にネコのように空中で体をねじって体勢を立て直す訓練が導入されています(Proceedings of the 2021)。
このように人類が好奇心から始めたおかしなネコ実験は最終的に、宇宙飛行士を身を守る行動の確立につながっているようです。