自ら培養したウイルスを使用して乳がんの治療を試みた研究者、その結末とは
自ら培養したウイルスを使用して乳がんの治療を試みた研究者、その結末とは / Credit:Canva
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【驚愕】自分で人体実験!ウイルスを使った乳がん治療に挑んだ女性科学者

2024.12.12 17:00:40 Thursday

再発した乳がんの治療に、自己実験を行うという前例のない決断を下したクロアチア・ザグレブ大学 (University of Zagreb) のウイルス学者Beata Halassy (ベアタ・ハラッシ) 氏。

医師たちのモニタリングのもと、自身の研究室で培養したウイルスを用いて治療を行いました。

科学的挑戦と倫理的課題が交錯するこのケースは、新たながん治療の可能性を示すと同時に、慎重な科学的検証の重要性を浮き彫りにしています。

研究の詳細は2024年8月23日付で学術誌『Vaccines』に掲載されています。

This scientist treated her own cancer with viruses she grew in the lab https://www.nature.com/articles/d41586-024-03647-0 Is it ever OK for scientists to experiment on themselves? https://theconversation.com/is-it-ever-ok-for-scientists-to-experiment-on-themselves-243612
An Unconventional Case Study of Neoadjuvant Oncolytic Virotherapy for Recurrent Breast Cancer https://doi.org/10.3390/vaccines12090958

再発した乳がんと科学者の決断:ウイルス療法への挑戦

2020年、49歳のウイルス学者のBeata Halassy (ベアタ・ハラッシ) 氏は、がんの再発という厳しい現実に直面しました。

左乳房を切除してから数年後、同じ部位で再び腫瘍が発生していることが判明したのです。

今回の診断は、筋肉にまで浸潤するステージ3の乳がんでした。

これまでの治療で再発を防げなかったという事実は、かなり彼女を落胆させました。

以前の化学療法で経験した副作用や身体的・精神的な負担を考えると、彼女は同じ治療方法を選択する気持ちにはなれなかったようです。

人によっては副作用の程度が異なる化学療法、再び同じ治療を選択するには躊躇いが生まれる
人によっては副作用の程度が異なる化学療法、再び同じ治療を選択するには躊躇いが生まれる / Credit:Canva

そこで、彼女は自身の専門分野であるウイルス研究分野で報告されている腫瘍溶解性ウイルス療法 (OVT)」 という新しい治療法に目を向けました。

OVTは、ウイルスを利用してがん細胞を攻撃すると同時に免疫系を活性化させる治療法です。

こうしたアプローチは、アメリカでは一部の皮膚がんに対する治療法として承認されています。

しかし、乳がんへの有効性はまだ十分に検証されておらず、かなりリスクの高い治療法です。

医師たちもこの治療法を患者に適用するという考えは持てませんでした。

そこで彼女が決断したのは、この治療法に対して自分自身を使った人体実験を行うという、自己実験の実施でした。

自己実験は、科学分野においてかなり倫理的な問題を問われる行為です。

とはいえ、歴史上自己実験の実施によって偉大な発見をした科学者はいくつか報告されています。

医学分野で有名なのは、オーストラリアの研究者バリー・マーシャル氏でしょう。

彼は、ヘリコバクター・ピロリ菌を自ら飲んでそれが胃の中で繁殖し、胃潰瘍や胃がんの原因になることを証明しました。(それ以前は細菌は胃酸で溶けてしまい胃の中では繁殖できないという認識でした)

井戸水などに潜むピロリ菌が胃がんの原因になる、胃カメラでピロリ菌を発見して除去できれば胃がんを回避できるなどの話は聞いたことのある人が多いでしょうが、その発見はこのマーシャル氏の自己実験からもたらされた成果なのです。

この発見は後に多くの人々の命を救うことに繋がったため、彼は2005年にノーベル医学賞を受賞しています。

このように、自己実験は倫理的な観点からは疑いの目を持たれているものの、十分な成果を上げた実例も存在しています。

そこで彼女は、OVTという新しい治療法について自身の科学的知識と経験を用いて自分の症例に適用するという判断をしたのです。

もちろん、思わぬ副作用の可能性があるため、彼女一人で実施できるものではありません。

そのため、この自己実験は医師たちによる慎重なモニタリング体制のもとで進められました。

ハラッシ氏の担当医たちは、治療の過程で経過を定期的に観察し、万が一悪化が見られた場合には従来の治療法に切り替える準備を整えていました。

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