「新しい無限」は既存の数学の常識を覆す
現在、無限の大きさを階層的に整理する際、大きく3つの領域に分けられています。
1番下(第1領域)には、通常の集合論の公理に従う無限数が含まれます。
ここには、カントールが扱った自然数や実数といった「基本的な無限」が存在します。
1番上(第3領域)には、選択公理をはじめとする標準的な集合論の公理さえも崩壊させてしまうほど巨大な無限数が存在します。
研究者たちは、この領域を「カオス」と呼んでいます。
一方で、ほとんどの無限数は、この2つの間に位置する「第2領域」に収まります。
そこでウィーン工科大学の研究者たちは、「エグザクティング・カーディナル(exacting cardinals)」と「ウルトラエグザクティング・カーディナル(ultraexacting cardinals)」という新しい無限を階層の中に当てはめようと試みました。
すると驚くべきことに、それが不可能であることが判明します。
この結果は、従来のHOD予想に反するものであり、新たな無限が従来の無限の階層構造に収まらず、その枠組みを超える特異な性質を持つ存在である可能性を示しています。
物理学に例えるなら、相対性理論に従わない物体や、標準モデルを超える新素粒子に似た存在の発見に近い偉業と言えるでしょう。
この発見は、無限の概念が単に「大きくなる」だけでなく、予想外の飛躍やねじれを含むことを示しています。
研究者たちも「これらが今までの公理体系(第2領域)内で依然として他の公理と両立しながら最上部に位置するのか、あるいはカオス領域(第3領域)に隣接し、第2領域の上に新たな『第4領域』を築くのか、現時点では分かりません」と述べています。
さらに、この発見は数学を超えた分野にも波紋を広げる可能性を秘めています。
無限の理解は哲学においても極めて重要であり、これまで無限の階層構造は数学的真理へと至る重要な道筋として機能してきました。
しかし、今回の研究はその階段を揺るがし、無限に対する根本的な問いを新たに提示しています。
「無限とは何か」「無限の全体像を捉えることは可能なのか」といった問いは、哲学や物理学の視点を交えたさらなる探求を促すでしょう。
無限の物語はまだ終わっておらず、この発見は新たな章の幕開けを告げてるのかもしれません。