野生動物とは思えないほど人慣れしている奈良のシカは調べたら実際に特別なシカだった
野生動物とは思えないほど人慣れしている奈良のシカは調べたら実際に特別なシカだった / Credit: Wikimedia Commons
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奈良公園の「お鹿様」はもはや他地域の鹿とDNAから違っていた

2024.12.29 17:00:06 Sunday

奈良公園のシカは周辺地域と近縁ではあるものの独自の遺伝子型を持つ集団であることがわかりました。

奈良公園のシカはよく人に慣れていて、鹿せんべいをねだる姿のかわいさなどから観光資源にもなっていますが、野生のシカで天然記念物に指定されています。

奈良教育大学、福島大学、山形大学からなる共同研究グループが、奈良公園と紀伊半島各地のニホンジカを対象に詳細な遺伝解析を実施したところ、奈良公園のシカは 1000年以上もの長きにわたり人々によって守られて生き残ってきた特殊な存在であり、まさに生きている文化財のような存在であることが明らかになりました。

この研究成果はアメリカ哺乳類学会(The American Society of Mammalogists)の学会誌『Journal ofMammalogy』に2022 年1 月 31 日付でオンライン公開されています。

鹿の角きり 一般財団法人 奈良の鹿愛護会 https://naradeer.com/event/tsunokiri.html
A historic religious sanctuary may have preserved ancestral genetics of Japanese sika deer(Cervus nippon). https://doi.org/10.1093/jmammal/gyac120 The sacred deer conflict of management after a thousand-year history: hunting in the name of conservation or loss of their genetic identity. https://doi.org/10.1111/csp2.13084

奈良のシカが「お鹿様」になったワケ

奈良のシカが特別な野生動物ということは外国にもよく知られています。

奈良のシカはいつから「お鹿様」となったかははっきりしていませんが、保護されるようになったのは春日大社の創建時まで遡ります。

社殿の造営は768年。奈良時代初めに鹿島の地から武甕槌命(タケミカヅチノミコト)を御蓋山にお迎えし、祀ったのが始まりで、お迎えした時に武甕槌命は白鹿に乗って降臨されたという言い伝えがあります。

768年から既にお鹿様だったとすると1000年以上の歴史があることになりますね。

春日鹿曼荼羅。春日退社と神鹿の関係を描いている
春日鹿曼荼羅。春日退社と神鹿の関係を描いている / Credit: Wikimedia Commons/ナゾロジー編

藤原道長の全盛期藤原行成が著した日記『権記(ごんき)』に1006 年、「春日大社に参拝した時シカに遭った。これは吉祥だ」と書いています。つまり、藤原道長が権勢をふるっていた時代には、奈良ではシカは既にお鹿様だったことがわかります。

つまり紫式部や清少納言にとっても奈良のシカがお鹿様なのは常識だったということで、ずいぶん古い時代から神鹿として大切にされてきたことがわかります。

春日大社。神鹿として奈良のシカを保護した
春日大社。神鹿として奈良のシカを保護した / Credit: Wikimedia Commons

しかしこの神鹿思想はなかなか厳しくて、中世から近世においてはシカの密猟で死罪になった人の記録も見られます。

それ以外に人を角で突くなどの被害もあったため、江戸時代に入ってからは対策が取られるようになりました。記録には、寛文十一年十月十六日、初めて神鹿を捕らえて竹垣の内に入れた、とあります。さらに寛文十二年からは毎年角伐りが行われるようになりました。

江戸時代も春日大社興福寺などから保護されてきたシカですが、明治維新では廃仏毀釈などの反動で乱獲されたこともわかっています。シカに罪はなかったのに、気の毒なことですが、そのせいで奈良のシカは激減しました。

そのため奈良県は春日大社の申し出を受けて1878年にシカの保護区を設定しました。

保護され安寧を得たかのような奈良のシカにも存在が危ぶまれる次期はあった
保護され安寧を得たかのような奈良のシカにも存在が危ぶまれる次期はあった / Credit: Wikimedia Commons

安寧を取り戻したかのような奈良のシカですが、第二次大戦中に再び乱獲されました。食糧難の中、密猟されてしまったのです。

通常、山林に生息して人を見れば逃げるシカですが、奈良の「お鹿様」は人慣れしているだけでなく、人は自分に危害を加えないことを学習しているので、他の地域のシカより捕獲しやすかったかもしれません。

人を恐れず、人を信じている奈良のシカは密猟の対象にもなった
人を恐れず、人を信じている奈良のシカは密猟の対象にもなった / Credit: Wikimedia Commons

終戦の年には、奈良のシカは何と79頭にまで減っていました。

現在は保護により1000頭を超えるシカがいます。明治維新と第二次大戦中の気の毒な状況を除けば、お鹿様は常時500~1000頭程度1000年を超える年月にわたって保護されてきたと考えられています。

1000年を超える年月にわたって保護されてきた奈良の「お鹿様」
1000年を超える年月にわたって保護されてきた奈良の「お鹿様」 / Credit: Wikimedia Commons

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