賢者タイムが起こるメカニズムは?
今のところ、射精後不応期の正確なメカニズムについては完全に解明されていませんが、いくつかの理論は提出されています。
その1つは射精後のオキシトシンの増加です。
オキシトシンは脳の視床下部の神経細胞によって作られるホルモンであり、脳で作用するだけでなく、血液を通して全身を巡ります。
このオキシトシンには心を鎮める作用があり、オキシトシンの増加レベルに応じて射精後不応期が長くなる可能性があります。
また、アメリカのヴァルパライソ大学(Valparaiso University)の2013年の研究では、自律神経系の信号変化の仮説が提唱されました。
射精することで、精嚢などの生殖器系の壁張力が低下。これに伴って自律神経系に信号が送られ、一時的に性的興奮や勃起を抑制するというのです。
この仮説では、男性は加齢と共に精嚢の張力を回復する時間が長くなると主張されています。
さらに、射精後不応期の原因として「プロラクチン」の分泌が挙げられることがあります。
射精することでプロラクチンというホルモンが大量に分泌され、興奮物質であるドーパミンや性欲物質であるテストステロンなど、勃起や性欲に必要なホルモンを抑えるというのです。
しかしこの説に対して専門家の間でも意見が分かれており、ポルトガルのポルト大学(University of Porto)の2021年の研究では、プロラクチンは射精後不応期に影響を与えないと結論付けられています。
こうしたことから、射精後不応期の原因は多面的かつ複雑であり、メカニズムの解明にはより多くの研究が必要だと分かります。
ちなみに、射精後不応期が年齢に応じて長くなることは、他の研究でも示唆されています。
例えば、いくつかの研究によると、18歳の男性の射精後不応期は約15分であるのに対し、70代では約20時間でした。
もちろん例外もあります。
アメリカのラトガース大学(Rutgers University)の2015年の研究では、不応期がないと報告した男性が調査されましたが、この被験者は実験室で36分間に6回のオーガズム(完全な射精を伴う)を経験したといいます。
彼は、その間ずっと勃起を維持しており、自身が申告した通り明らかな射精後不応期は見られませんでした。
これは非常に特殊な事例と言えますが、賢者タイムが発生しない男性が存在することも確かなようです。
では、性交後憂鬱についてはどうでしょうか。
オーストラリアのクイーンズランド工科大学(QUT)の2019年の研究では、1208人の男性参加者のうち、40%が生涯で少なくとも1回は性交後憂鬱を経験したことがあると報告されています。
また、参加者の3~4%は頻繁に性交後憂鬱を経験しており、男性の性交後憂鬱は、現在の精神的苦痛、幼少期の性的虐待、およびいくつかの性的機能障害と関連していることが分かりました。
また別の研究では、女性参加者の7.7%が長期間、性交後憂鬱に悩まされていると報告されています。
こうした報告から分かる通り、性交後憂鬱の主な原因は、性行為に対するトラウマやネガティブな心理状態だと分かります。
症状が現れる頻度や重さによっては、専門家のケアが必要かもしれません。
もし、皆さんが経験している「賢者タイム」が、単なる性欲の消失、虚無感なのであれば、特に気にする必要はありません。
しかし、そこに悲しみや憂鬱、不安、怒りなどのネガティブな感情が伴うなら、いくらか注意が必要でしょう。
一般的に報告される「賢者タイム」は憂鬱などを経験するものではないため、もし性交や自慰の後にネガティブな感情が高まる場合、心に何らかのトラブルを抱えているかもしれないからです。
こうした状態の内容について、人と話し合う機会は普通ないので、人と感じている内容が違うということは気づかずに放置されている可能性もあります。
ケアが必要な人は、きちんと専門家に相談しましょう。