自ら寄生虫を飲んで死にかけたアメリカ人医師
アメリカ人医師のクロード・バーロウはキュッヘンマイスターとは違い、自らの体を実験台にしたことで知られます。
1944年、彼が赴任していたエジプトで「住血吸虫」という寄生虫が猛威をふるっていました。
住血吸虫症は世界で最も感染者の多い寄生虫感染症のひとつであり、今でも世界に2億人以上の患者がいます。
これにかかると、発熱や下痢、じんましん、血尿の他、お腹が太鼓のように膨れる腹水症状が見られます。
住血吸虫は淡水の巻き貝を中間宿主として成長し、住血吸虫に汚染された水田などに入ると人に感染します。
当時は戦争の真っ最中だったため、アメリカ軍は海外に派遣された兵士が住血吸虫を自国に持ち込まないか非常に懸念していました。
そこでバーロウは住血吸虫がアメリカの淡水にいる巻き貝にも感染しうるかどうかを調べようと考えます。
もしアメリカの巻き貝にも感染できるなら、住血吸虫がアメリカに定着し、人々にも蔓延する可能性があるからです。
ところがアメリカの巻き貝をエジプトに輸送しようとしても、そのほとんどが旅の途中で死んでしまうことがわかりました。
巻き貝を運べないのなら、住血吸虫の方をアメリカに運ぶしかありません。
住血吸虫を運ぶには何かに寄生させておく必要があります。
そこでバーロウは自らの体を寄生虫の方舟にしたのです。
アメリカ軍の医師団は「危険すぎるから、やめておけ」とバーロウに釘を刺しました。
住血吸虫症にかかると、激しい赤痢や貧血、衰弱を引き起こすだけでなく、日ごとに大量の卵を産みつけるので、それが体内に溜まって炎症を起こすからです。
炎症がひどくなると臓器に必要な血流が阻害され、命を失う危険まで出てきます。
それでもバーロウはまったく怯みませんでした。
3週間かけて住血吸虫を4回飲み込み、アメリカ行きの飛行機に搭乗。
その時点ですでにバーロウの体には異変が起こっており、大量の汗と目眩のほか、食欲もなくなっていました。
アメリカに着いてからは血尿と下血が始まり、耐え難いほどの痛みを伴う膀胱炎を発症。
20分おきに排尿しなければならず、ほとんど眠れなくなりました。
さらに40度の高熱が続き、バーロウの体からは1日に1万2000個もの卵が排出されたとのことです。
もはや研究どころではなく、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていました。
バーロウはついに薬による治療を始め、なんとか一命を取り留めたものの、完全に弱り切ってしまい、実験は断念してしまったようです。
ここまでの話を聞くと、多くの方は「なんて恐ろしい、寄生虫なんて絶滅すべきだ!」と思われるかもしれません。
しかし寄生虫の大半は無害であり、なんなら中には人体にとって有益なものもいるのです。