ハレムを支える男たち

さらに興味深いのは、ハレム内を動かす男たちの存在です。
元来、黒人宦官がその中心に据えられていたものの、後にグルジア人など白人の宦官も導入され、彼らはシャーやハレムの女性たちとの連絡役として、あるいは時には政治的な影響力を振るうまでに成長したのです。
こうして、華やかな美貌を誇る女性たちと、彼らを取り巻く男性たちとの複雑な相互関係が、ハレムという制度の奥深さを物語っているのです。
宦官という去勢された官吏の存在は何もイスラーム世界に限ったものではなく、中国の歴史にもしばしば登場します。
しかし中国におけるそれは、ハレムの宦官とは似て非なる存在であったのです。
ハレムの宦官は先述のように黒人や白人といった異人種や奴隷から採用されることが一般的でした。
また時として政治的な影響力を持つものが現れることはあっても、基本的には役割や地位はハレム内部に限定されており、表向きは政務への参加を禁止されていました。
それに対して中国の宦官は、異民族の出身者もいたものの、基本的には自国民が採用されていたのです。
また時代によって宦官の裁量は異なるものの、しばしば皇帝の信任を背景に公然と宦官が強権を振るっていたのです。
このように、両者はそれぞれの宮廷制度や文化的背景に根ざした役割分担や運用方法に大きな違いが見られ、単に「去勢した男性」という点では共通しているものの、政治的影響力や採用される背景などにおいて明確な相違が存在しています。
森の中の秘密基地のように、一見すると閉ざされた世界と思われがちなハレム。
しかし、その実態は、移動する王朝という大河の流れとともに変容しました。
内部の役職や身分制度が細やかに編まれた、極めて多面的な一大組織であったのです。
栄華と共に栄え、時にはその重荷が国家の足枷となることもあったものの、何よりもその中で生き抜いた女性たちの哀歓と栄光は、今なお歴史の一ページに色濃く刻まれています。