夢をデザインする—AIがもたらす夢の自由化
夢は一見脈絡のないもののように感じますが、ランダムな映像の羅列ではなく、大抵の場合なんらかのストーリー性を持っています。
ここで注目されているのが、AIが夢の機能をシミュレートする技術の研究です。
Google BrainでAI研究に従事していたデビッド・ハ(David Ha)と、スイス人工知能研究所(IDSIA)の所長であり長年にわたり深層学習の発展に貢献してきたユーゲン・シュミットフーバー(Jürgen Schmidhuber)が2018年に発表したWorld Modelsというシステムでは、AIが「自分だけの仮想世界」を作り出し、そこでシナリオを自由に展開できる仕組みが研究されています。
この研究は、スイス人工知能研究所(IDSIA)とGoogle Brainの共同研究として進められました。
この研究自体は、AIが仮想的な内世界で強化学習を行う手法として提案されていますが、ここで再現されているものは人間の夢が持つ機能に類似しています。
そのためこの技術が発展すれば、例えば先述の技術と組み合わせてAIが他人の夢の内容を読み取って、それをVR技術と組み合わせて再現することで他人の夢を体験できるようになる可能性もあります。
さらに未来の技術としては、AIが情報を直接脳へフィードバックすることで、希望した夢を寝ている間に見られるようになったり、他人の夢に干渉できるようになる可能性もあります。
この技術が実現すれば、他者の夢に忍び込むだけでなく、ストレスを和らげるために「癒しの夢」を見たり、試験前に「学習内容を整理する夢」を見るという世界も可能になるのです。
AIが夢を管理する未来
もしAIが私たちの夢をコントロールできるようになったら、どんな未来が待っているのでしょうか?
例えば、AIが悪夢を回避し、リラックスできる夢を優先的に生成することで、睡眠の質を飛躍的に向上させることができます。
この技術は、特にPTSD(心的外傷後ストレス障害)患者の治療にも応用が期待されています。
ターゲット・ドリーム・リハーサル(TDR:Targeted Dream Rehearsal)とAIを組み合わせた治療法の研究が進められており、悪夢のシナリオをポジティブなものへと変えることで、ストレスの軽減を図る試みが行われています。
さらに、夢の中でさまざまなシミュレーションを行うことで、現実世界のスキルを向上させたり、新たなアイデアを発想することができるかもしれません。スポーツ選手が試合のシミュレーションを行ったり、クリエイターが新しい発想を夢の中で試したりする未来が想像できます。
そのため、エンターテインメントとしての技術だけでなく、メンタルヘルスケアや、人間の学習能力の強化にも夢をコントロールする技術は応用されていくことが期待できるのです。
しかし、こうした技術の進化には倫理的な課題もつきまといます。
たとえば、「夢の中の体験を誰が管理するのか?」という問題や、AIが夢の内容を記録・分析できることによるプライバシーの懸念が指摘されています。
EUのAI Actでは、脳活動データを生体認証情報と同等に保護するべきだとされており、慎重な運用が求められています。
まとめ
AIによる夢のシミュレーション技術は、脳活動をデコードすることで「誰かが見ている夢の世界」を脳内に再現するという世界を実現するかもしれません。
この技術が進化すれば、自由に夢を選び、リラックスや学習、創造性の向上に活用できる可能性もありますし、PTSD患者の悪夢を軽減する治療法や、精神を圧迫する根本的な原因を探る医療技術としても応用が期待されています。
しかし、こうした技術の発展には、プライバシーの保護や倫理的な課題への慎重な対応が求められます。技術が未熟な段階では誰も気に留めませんが、技術が現実的なものとなったときネックとなるのはこうした部分の問題です。
それはAIの機械学習モデルが、急激に発達した途端、著作権の問題を取り上げる人たちが増えたことからも見て取れます。
技術の発展には注意が必要ですが、「AIが望みの夢を見せてくれる未来」は、着実に近づいています。
もし、今夜あなたが自由に夢を選べるとしたら、どんな夢を見たいですか?
つまり、隣のあの子の夢に入り込んでハァーイ!ジョージ!することも不可能ではないと