重力がエントロピーから発生する理由

今回の研究は、この視点をさらに推し進め、「時空の計量」と「物質場が誘起する計量」が量子相対エントロピーのように関係すると考えたのが特徴です。
たとえば量子相対エントロピーとは、ふたつの量子状態(密度行列)がどれくらい異なっているかを“エントロピー的な距離”として測る指標です。
今回の研究では、まるで「時空自体がひとつの量子状態」であるかのようにとらえて、「時空の計量」と「物質場が誘起する計量」をそれぞれ独立した量子状態のように扱っています。
そして「時空と物質がそれぞれもつ“曲がり具合(計量)”の差異」を量子相対エントロピーで表しています。
イメージとしては、空間の曲がり方を示す“時空の計量”と、物質がつくり出す“もう一つの計量”が、似たかたちをしていれば差は小さく、その分「重力(曲率)」を引き起こす要因も小さくなる。
一方、両者のかたちが大きくズレていれば、それを埋め合わせるように空間が歪み、結果としてより強い重力として観測される可能性が高まる、という考え方です。
(※「エントロピーが大きいか小さいか」という絶対的な値そのものよりも、「両者(時空と物質の計量)のずれがどれだけ大きいか」が重要になりますので、たとえ“時空側のエントロピーがとてつもなく大きい”としても、物質側の計量とほぼ同じ形(=相対エントロピーが小さい)であれば、重力が強く出現するわけではありません。あくまで“エントロピー的な差(量子相対エントロピー)”が鍵であって、その差を大きく生み出すのが「時空と物質の計量のミスマッチ度合い」だと捉えるのが、この理論の特徴です。)
このふたつの計量が近ければ“違い”はほとんどないが、大きく食い違うほど相対エントロピーが増大し、結果的にそれが重力の強さや時空の曲がり具合に影響を与える――というのが直観的なイメージです。
たとえるなら、度数の異なるメガネを二重にかけたときに見える風景のズレを数値化するようなもので、“ズレ”が大きいほど世界の見え方が歪み、その“歪み”こそが重力として現れるわけです。