エントロピーが映し出す量子重力への道

今回の研究では、「トポロジカル場」と呼ばれる一風変わった物質場が重要な役割を果たします。
高校レベルの物理では主に、たとえば温度のように“数値”だけで表されるスカラー場や、風のように“向きと大きさ”を持つベクトル場が登場するが、この理論ではそれより次元が一つ上の2形式――「面積」や「表面の向き」などを表す概念――もあわせて扱います。
こうすることで、“スカラー”“ベクトル”“2形式”といった複数の状態を一度に眺めることができ、空間のゆがみ方や広がり方をより多面的に記述できるようになるのです。
次に、先ほどから述べているように、時空と物質の曲がり方の違いをエントロピーの差として計算します。
ふつうの一般相対性理論では、時空の曲がりを表す計量は一種類だけでです。
しかし本研究では、“物質そのものが勝手に描く曲がり”という別の計量を導入し、これと時空本来の計量とのズレをエントロピーのような指標で測っています。
そうすると、両者の差異が「重力」という形で現れる可能性が見えてくるのです。
しかも研究者たちは、G場と呼ばれる「補助的な場」を導入して、この“二つの計量の食い違い”をうまく調整できるようにしました。
たとえるなら、二つのばねを繋いで揺れを抑えるショックアブソーバーのような役割を持つといえるでしょう。
これによって、重力の方程式が高次の微分(複雑な揺れを生みやすい項目)を含まず、理論全体が不安定にならないというメリットも得られました。
実際にコンピュータ上でシミュレーションすると、理論の予測とよく符合することが示唆されました。
普通の状況、つまりエネルギーや曲率が小さい領域では、二つの計量がほぼ同じ形を保つため相対エントロピーは小さく、結果として一般相対性理論と大差ないふるまいに近づきます。
一方、ブラックホール近傍や宇宙初期のような“極端な環境”では、物質場がつくる計量と時空計量に大きなミスマッチが生じやすく、相対エントロピーが増大して強い重力や独特の空間の歪みを生む可能性がより高いと考えられます。
エントロピー的に見ると、この「ズレ」をなんとか“緩和”しようとする作用が働き、それが小さいながら正の宇宙定数という形で現れると主張されています。
エントロピーが高い、つまり乱雑さが増えて安定から外れそうな状態は、例えるなら「部屋が散らかりすぎて、どこに何があるか分からなくなりつつある状況」といえるでしょう。
時空の計量と物質の計量が大きく違えば違うほど、部屋の散らかり具合(乱雑さ)が増していくイメージで、それを“片づけ”ようとする力が重力の方程式の中で“宇宙を押し広げる”効果(正の宇宙定数)として表れるのです。
さらに大切なのは、この“部屋の散らかり具合”を測る指標が「情報的なズレ(量子相対エントロピー)」である点です。
要するに、時空と物質の“違い”が大きいほど乱雑さが増え、その乱雑さを減らそうとする過程が重力として観測されるのではないか――これが「重力はエントロピーから生じる」という主張の根本にある考え方です。
言い換えれば、重力とは単なる“空間の曲がり”ではなく、“時空と物質の情報的なギャップを埋めようとする動き”としても理解できるかもしれません。
まとめると、
1:時空計量と物質の計量の差(量子相対エントロピー)が、重力の規模や挙動を左右する。
2:極端な環境下ではその差が大きくなり、“歪み”=重力を緩和するメカニズムとして宇宙定数が生まれる。
3:この宇宙定数は「エントロピーを通じた時空の押し広げる力」とみなせる。
4:結果として「重力はエントロピーから生じる」という結論を導ける可能性がある。
となるわけです。