次なる一手は臨床試験! ‘記憶のハーブ’がもたらす革命

今回の研究の成果は、ローズマリーに含まれるカルノシン酸を「diAcCA」という形で安定化させることにより、脳内の炎症と酸化ストレスの両面でアプローチできる新たな治療法の可能性を示しています。
カルノシン酸は、Nrf2と呼ばれる転写因子を活性化し、細胞を保護する抗酸化酵素を増やす働きがあると考えられています。
アルツハイマー病には、アミロイドβを狙う抗体医薬やリン酸化タウを標的とする方法など、さまざまな治療薬が開発されてきました。
しかし、これらの治療薬は特定のタンパク質を排除する効果がある反面、脳に浮腫や出血などの炎症リスクを引き起こす「ARIA-E/H(アリア)」と呼ばれる副作用が課題になります。
一方、今回のdiAcCAは、炎症そのものの発生を抑制するメカニズムを備え、さらに脳の「シナプス密度」を改善したり、関連タンパク質の凝集を減少させたりする効果が確認されました。
しかも、カルノシン酸はすでにFDAから「一般的に安全とみなされる(GRAS)」として認められており、その転用によって臨床試験を迅速に始められる可能性があります。
これは医薬品開発の大きなボトルネックの一つである「安全性の検証」をある程度クリアしていることを意味し、既存治療との併用なども含めて多様な研究展開が期待されます。
さらに、アミロイド抗体療法との併用によって、脳浮腫や出血リスクを軽減できる可能性が示唆されている点も注目に値します。
抗体医薬が脳内アミロイドβを除去する一方で、diAcCAが炎症や酸化ストレスを制御することで、双方の弱点を補い合う相乗効果が期待できるわけです。
今後は、実際のヒト患者を対象とした試験で、最適な投与量や長期的な効果を検証する必要があります。
加えて、アルツハイマー病以外にも、炎症が関係する心臓病や2型糖尿病、さらにはパーキンソン病などの神経変性疾患への応用にも道が開けるかもしれません。
とはいえ、まだ前臨床の段階であり、ヒトでの有効性が確立したわけではありません。
ローズマリーの香りが「記憶」を呼び覚ますという古来の言い伝えは、科学的な実証を伴って新しいステージに入りつつあります。
diAcCAを中心とした研究開発がさらに活発化することで、アルツハイマー病の進行を抑えるだけでなく、記憶を取り戻すための治療選択肢が広がっていくことが期待されます。