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人間の血を蚊に対してだけ毒にする!マラリア対策のゲームチェンジャーが登場

2025.03.27 17:00:15 Thursday

「蚊に刺されるだけで、蚊が死ぬ世界が来たらいいのに」と思ったことはありませんか?

実はその“夢のような現象”を、科学者たちがすでに現実のものにしつつあるのです。

2025年3月26日、英リバプール熱帯医学学校(Liverpool School of Tropical Medicine)を中心とする国際研究チームが、 学術誌『Science Translational Medicine』にて画期的な研究成果を発表しました。

その内容は、希少病治療薬「ニチシノン(Nitisinone)」を服用した人間の血液が、蚊にとっての毒になるというもの。

この薬を飲んだ人の血を吸った蚊は、若かろうが老いていようが、殺虫剤に強かろうが、ことごとく死亡してしまうというのです。

蚊を媒介とするマラリアやデング熱といった感染症に苦しむ世界中の地域にとって、この研究は希望の光となるかもしれません。

Drug For Rare Disease Turns Human Blood Into Mosquito Poison https://www.sciencealert.com/drug-for-rare-disease-turns-human-blood-into-mosquito-poison?utm_source=reddit_post
Anopheles mosquito survival and pharmacokinetic modeling show the mosquitocidal activity of nitisinone https://doi.org/10.1126/scitranslmed.adr4827

 なぜ人間の血が蚊の“毒”になるのか?意外な蚊の弱点

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蚊のメスは産卵に必要なたんぱく質を得るため、哺乳類や人間の血液を吸います。

ところが、血液中のたんぱく質を消化する過程で、チロシンというアミノ酸が大量に生じます。

このチロシン、実はにもなる物質なのです。

チロシンは体内で適切に代謝・分解されないと、有毒な副産物が蓄積し、細胞を損傷し始めます。 つまり蚊にとってチロシンの処理は「生きるための最重要任務」なのです。

そのチロシンの分解経路の中心にあるのがHPPD(4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ)という酵素で、ここをブロックすれば蚊はチロシン中毒を起こして死にます

この弱点に作用するのが、今回注目された薬「ニチシノン(Nitisinone)」。

もともとこれは、チロシン代謝異常症という遺伝性の希少病の治療に使われています。

チロシン代謝異常症の一種「アルカプトン尿症」では、体内でチロシンが正常に分解されず、関節や臓器に毒性物質が蓄積して痛みや機能障害を引き起こします。

その治療のためにHPPD酵素を阻害し、チロシンの流れを抑える薬がニチシノンであり、FDA(アメリカ食品医薬品局)にも承認されています。

研究では、ニチシノンを服用した人の血液を吸わせた蚊(アノフェレス・ガンビエ)が、驚くほどの割合で死亡することが確認されました。

蚊の年齢に関係なく、さらに既存の殺剤に耐性を持つ蚊ですら効果があったのです。

さらに、わずか2mgという低用量を服用していたアルカプトン尿症の患者の血液でも、同様の致死効果が観察されました。

これは非常に大きな意味を持ちます。なぜなら、日常的な服薬レベルでも蚊の生命を脅かせるということは、実用化へのハードルが格段に低くなるからです。

次ページマラリアの根絶に繋がる「人間型殺虫剤」という発想

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