結婚は本当に「健康」にいいのか?
「結婚していた方が健康で長生きできる」と聞いたことがあるかもしれません。
確かに過去の研究では、結婚によって得られる精神的・経済的な安定が、心臓病やうつ病、さらには寿命にまで良い影響を与えることが示唆されてきました。
パートナーがいれば、日常的な話し相手にもなりますし、病気の初期症状に気づいてもらいやすく、病院への受診も早期に促されるなど、そうした日常のサポートが健康に寄与する理由とされています。
では、認知症についても同じことが言えるのでしょうか?
実はこれまでの研究では「未婚者の方が認知症リスクが高い」とするものもあれば、逆に「差がない」「離婚したほうがリスクが下がる」という結果もあり、一定の結論は出ていませんでした。
特に注目すべきは、近年の社会の変化です。
現代では一度も結婚しないまま高齢になる人、離婚を選ぶ人が増えています。
こうした「独り身」が増えた現代社会において、結婚が脳の健康にもたらす影響をあらためて調べ直す必要があったのです。

そこで研究チームは今回、アメリカ全土のアルツハイマー病研究センター42施設以上から集められたデータを使用し、2万4107人の高齢者(平均年齢71.8歳)を対象に最大18年間追跡しました。
調査開始時点では、いずれの参加者も認知症ではありません。
その後、毎年1回、訓練を受けた臨床医による標準化された評価が行われ、認知症の診断がつけられました。
その結果、追跡期間中に認知症を発症したのは、全体の20.1%でした。
しかし結婚歴と認知症との関係性を見ると、興味深い傾向が見つかったのです。
グループ別で見ると、既婚者における認知症の発症率は21.9%、死別者で21.9%となっていました。
ところが離婚者は12.8%、一度も結婚していない人では12.4%と、独り身の高齢者は明らかに認知症リスクが低くなっていたのです。
統計解析で、既婚者を基準にしたリスク相対値も算出されました。
それによると、
・離婚した場合、認知症の発症リスクは34%低下
・一度も結婚していない未婚者の場合、認知症の発症リスクは40%低下
との結果が出ています。
さらに健康状態、生活習慣、遺伝要因などをすべて考慮したモデルでも、離婚者と未婚者のリスク低下は有意のままでした。
これは「結婚していたほうが健康にいい」という従来の考えを揺るがす結果です。
では、なぜ未婚や離婚の人たちの方が認知症リスクが低いのでしょうか?