コーヒーの「抽出方法」がコレステロールを左右する理由
昔から「コーヒーは体にいい」と言われてきました。
実際、カフェインには覚醒作用があり、ポリフェノールには抗酸化効果もあります。しかし、1980年代に入ってから、ある副作用が注目されるようになります。
それが「コーヒーを飲むとコレステロール値が上がる」という報告です。特に、紙フィルターを使わず直接煮出した“ボイルドコーヒー”(鍋で煮出すスタイルの抽出方法)ではその傾向が顕著でした。
では、なぜフィルターがそんなに大事なのでしょうか?
答えは、コーヒー豆に含まれるジテルペン類という油の一種にあります。このジテルペンは、肝臓がコレステロールを分解する機能を邪魔してしまうのです。
しかしペーパーフィルターを用いた場合、このジテルペンをキャッチしてくれます。つまり、紙を通して淹れたコーヒーは比較的安全というわけです。

ところが、最近では「エコで経済的」として、金属フィルター(ステンレス製など)が家庭や職場で広まってきました。
金属フィルターは繰り返し洗って何度も使えるため、紙フィルターのように毎回買い足す必要がありません。ゴミも少なくなるので環境への負担が少なく、長い目で見ればコストパフォーマンスが高いとされているのです。
しかし金属フィルターは、紙のようにジテルペンを吸着しないため、油分をそのままコーヒーに通してしまうのです。
こうした金属フィルターは家庭向けのマシンでも売られていますが、特に職場に置かれるマシンでよく採用されるタイプです。
ウプサラ大学の研究チームは、「それなら、職場でコーヒーを飲むと体に悪いのでは?」と考え、スウェーデンの病院や医療施設にある14台のコーヒーマシンを徹底調査しました。
その結果、実際職場に置かれているコーヒーマシンは金属フィルター式が中心であり、コレステロールを上げるジテルペン類の量は、紙フィルターを用いた場合の10倍以上含まれているとわかったのです。
研究で報告されていた、このジテルペンの代表格である「カフェストール」の含有量を以下に比較して表記します(単位はmg/L=1リットルあたりのミリグラム量)。
抽出方法 | カフェストール濃度(mg/L) |
---|---|
紙フィルター式ドリップコーヒー | 約12 |
ブリューイングマシン(職場用) | 平均176(最大で444) |
ボイルドコーヒー(煮出し式) | 約939 |
この差は驚くべきものです。ペーパーフィルターを使えば大半のカフェストールは取り除かれますが、金属フィルターではそれがそのまま残り、さらに煮出し式では桁違いの量になってしまいます。
ちなみに煮出し式とは、鍋に水とコーヒー粉を入れて沸騰させて抽出し、その後、粉が底に沈むのを待ってから、上澄みだけを注いで飲むスタイルのことです。電源のない場所でも手軽に淹れられるため、特にキャンプやアウトドアで親しまれています。
煮出し式を日常的に用いる人はほとんどいないでしょうが、金属フィルターで日常的にそのコーヒーを飲んでいるとどうなるのでしょうか――次章ではその影響を見ていきましょう。