一見“気のせい”が、実はカギを握るかもしれない

世界規模で猛威を振るった新型コロナウイルスは、WHOの推計によれば全世界で7億7000万人を超える感染者と約690万件の死亡例をもたらし、社会に大きな混乱を引き起こしました。
感染拡大を食い止める切り札として、アメリカでは3種類のワクチン(J&J、Moderna、Pfizer)が短期間で開発され、多くの人々が接種を受けています。
これらのワクチンは有効かつ安全とされながらも、接種を受けた後の抗体の上がり方や副反応、接種に対する感情や不安の感じ方が人によって大きく異なるのも事実です。
一方で「心や考え方」という心理的な要素が、実際の体の反応や健康状態に深く作用することが、近年の研究で次々に明らかになってきました。
たとえばストレスを「自分の成長に役立つもの」と考える人は、“害にしかならない”と思い込んでいる人よりも前向きにストレスを乗り越えたり、体内のホルモン変化がプラスに働いたりすることが報告されています。
また、医療現場でも「プラセボ効果」「ノセボ効果」という言葉が示すように、薬や治療に対する期待や不安の度合いが、実際の治療効果や副作用の出方を左右する現象も知られています。
たとえば、アレルギー治療を受ける子どもに対して「症状があるのは治療が効いている証拠だよ」と前向きに捉えさせるだけで、不安が軽減されるうえに治療効果が上がる例も報告されてきました。
こうした話は一見「気持ちの問題」と片付けられがちですが、最近ではワクチンという実社会での大規模接種の場面でも、心理的な要因が「心身にどんな影響を与えうるのか」に注目が集まり始めています。
「ワクチンは自分を守ってくれるに違いない」と思う人と、「副反応が怖いから何が起きるかわからない」と思う人とでは、ワクチン接種後の体験がまるで違うものになるかもしれない――そう考えると、私たちの考え方(マインドセット)を変えるだけで副反応への恐怖を和らげたり、実際の免疫反応を改善したりできる可能性があるのではないか、と期待が高まっているのです。
そこで今回研究者たちは、「ワクチンに対する信念や思い込みが、実際に接種後の抗体量や副反応、さらに人々の気持ちの変化にどのような影響を与えるのか」を体系的に検証することにしました。