システィーナ礼拝堂の天井に描かれたアダムとイヴ
システィーナ礼拝堂の天井に描かれたアダムとイヴ / Credit:Wikimedia Commons
biology

「一組の男女から人類は繁栄できるのか?」ダーウィンとその後の科学が見つけた答え

2025.04.12 21:00:54 Saturday

聖書の物語では、人類はアダムとイヴという一組の男女から始まったとされています。そしてノアの方舟では、あらゆる動物たちがオスとメスのペアで乗せられ、種を存続させたと語られています。

こうした神話に触れると、「本当にそんなふうに種は繁栄できるのか?」という疑問が自然と浮かびます。

特に生物に関心のある人ほど、「近親交配で生き物を増やすのは無理があるのでは?」と感じることでしょう。

実はこの素朴な疑問、かつて進化の理論が確立する前から、静かに人々の間で囁かれてきたものでもありました。

今回は、聖書の内容に疑いを抱き始めた時代の人々が悩んでいた「生物の繁栄の仕方」という謎を、歴史の流れとともに解説していきます。

Bottlenecks and founder effects https://evolution.berkeley.edu/bottlenecks-and-founder-effects/?utm_source=chatgpt.com The RNA World and the Origins of Life https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK26876/?utm_source=chatgpt.com
Darwin was right: inbreeding depression on male fertility in the Darwin family https://doi.org/10.1111/bij.12433 Experimental Evidence for the Negative Effects of Self-Fertilization on the Adaptive Potential of Populations https://doi.org/10.1016/j.cub.2016.11.015

ダーウィン自身も悩んでいた、「近すぎる血のつながり」

17〜18世紀に啓蒙思想と聖書批判がはじまります。

啓蒙思想とは、理性と観察を重視する考え方で、「神話の内容は文字通りの真実ではないのでは?」という批判的視点が生まれるのです。

特に、フランスのヴォルテールやルソーなどは、聖書の内容に対して批判的であり、「人間の起源」や「人類の多様性」は宗教的説明だけでは足りないと考えていました。

ただしこの段階では、まだ遺伝子や近親交配に関する科学的知識がなかったため、「一組から種を復元できるのか?」という問いの答えはありませんでした。

そして1859年、チャールズ・ダーウィンが『種の起源』を出版し、進化の考え方が世に広まっていきます。

ただこのときはまだ、ダーウィン自身、遺伝の仕組みを詳しくは知らない時代でした。

そんな中でダーウィンは、ある懸念を抱きました。

それが近親交配に潜むリスクです。

ダーウィンが近親交配に関心を持った背景には、彼自身の結婚相手が“いとこ”だったことが深く関係しています。

エマ・ウェッジウッドはダーウィンの母方の従姉妹であり、彼らの間には10人の子どもが生まれました。しかし、そのうち3人は若くして亡くなり、他にも体の弱い子どもが何人かいたと言われています。

Emma Darwin - 1840
Emma Darwin - 1840 / Credit:Wikimedia Commons

当時の英国上流階級では、いとこ婚は珍しくありませんでしたが、ダーウィンはこれを単なる偶然とは思わず、「もしかして、血縁が近いことが原因ではないか」と強い懸念を抱きました。

なぜなら、進化を“自然淘汰”の視点で考えた場合、「近親交配は進化に不利だから、自然選択によって避けられるような仕組みが発達してきたのではないか?」と予想されるからです。

そこでダーウィンは植物を使って、自家受粉(近親交配)と他家受粉(遺伝的に異なる個体同士の交配)を比較する実験を行いました。

そして、自家受粉によって子孫の生育が悪くなる傾向があることを発見するのです。

その後、20世紀に入って遺伝学が飛躍的に発展し、メンデルの法則が再評価されることで、近親交配のリスクがより明確にされていきます。

さらに1930年代には、J.B.S.ホールデンやセーウェル・ライト、ロナルド・フィッシャーといった研究者たちによって「集団遺伝学」が誕生します。

こうして、遺伝子の多様性や集団内での遺伝子の頻度変化を数学的に扱うことができるようになり、「創始者(種の最初の個体)がごく少数であれば、遺伝的多様性が失われ、種としての健全性を保てなくなる」ということが理論的に示されました。

これはまさに、「アダムとイヴ的な出発点」では長期的に繁栄することは難しい、という科学的な根拠に他なりません。

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