受精のタイミングでなぜ太りやすさが変わるのか?
この不思議な現象には、「エピジェネティクス」という生物学の考え方が関係しています。
エピジェネティクスとは、DNAの設計図自体は変わらないのに、どの遺伝子を働かせるかの“スイッチの入り方”が、環境によって変わるという仕組みのことです。
寒い環境で受精した場合、その寒さが親の精子や卵子に影響を与え、エネルギーの使い方に関わるスイッチの設定が変わる可能性があります。
この情報が、子どもにそのまま受け継がれ、大人になったときの体質にまで影響を与えるのではないかと考えられるのです。
実際、マウスの研究でも、寒い環境にいたお父さんから生まれた子どもは、褐色脂肪が活性化しているという結果が出ています。
この研究は、「太りやすさ」は遺伝だけで決まるわけではなく、生命が始まったときの環境でも変わってくるかもしれない、という新しい視点を示しています。
ただ、受精した時期と言われても自分はどちらに当てはまるのか、即座に理解できません。
そこでざっくりと、いつ生まれの人が太りにくいのかを逆算してみましょう。
この論文は日本の研究のため、日本の気候を基に以下のように季節を分類しています。
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寒冷期:10月17日〜翌年4月15日
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温暖期:4月16日〜10月16日
このうち、「寒冷期」の期間に受精した人は、より褐色脂肪が活性化している傾向にあるというわけです。
通常、妊娠期間(出産予定日まで)は約266日(約38週)とされます。これをもとに逆算すると、寒冷期に受精した人は7月~1月生まれの人ということになりそうです。
もちろんこの計算は早産や遅産で生まれた人(早産は37週未満、遅産は42週以上)の場合はズレる可能性があります。
双子や三つ子など多胎妊娠も早産になりやすく、出産週数が短くなる傾向があるため、出生日からの逆算では受精日を正しく見積もれない可能性があります。
他にも、帝王切開や誘発分娩を用いた人は受精のタイミングは計算が難しくなります。
なかなか自分の生まれたときの状況はわからないものなので、安易に誕生月から逆算して考えると、予想とズレてしまうかもしれないので注意しましょう。
私たちの“健康”や“体質”を考えるときは、「今どんな生活をしているか」、「どんな環境で生まれてきたのか」だけでなく、「どんな環境で受精したのか」にまで目を向ける必要があるようです。

現代は気候変動の時代にあるため、もしかしたら、気候変動や都市の環境は、次の世代の体質に影響を及ぼし始めている、という可能性もあるのかもしれません。
体の中の「小さなヒーター」が、いつ、どうやってスイッチを入れられたのか。科学者たちは、その秘密を少しずつ解き明かしながら、未来の健康へのヒントを探し続けています。