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宇宙全体が回転していると考えれば「宇宙論最大の謎」を解決できるかもしれない (2/2)

2025.04.17 23:00:32 Thursday

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「宇宙が回転している」という仮説の中身

今回の研究では、ハッブル・テンションを説明する一つの可能性として、「宇宙全体がごくわずかに回転している」という仮説が提案されました。ここで言う「回転」とは、地球や銀河のように“天体が回る”ことではなく、時空そのものがわずかな角運動量を持っているという意味です。

研究チームは「暗黒流体(dark fluid)モデル」を採用しました。これは、ダークマター(暗黒物質)とダークエネルギー(暗黒エネルギー)を一つの統合的な“流体”として扱い、宇宙全体の膨張とその力学を記述する理論です。

このモデルにゆっくりとした回転(現在の角速度 ω₀ ≈ 0.002 Gyr⁻¹)を加えると、CMBから求めた膨張速度と、超新星からの観測値がうまく一致することが数値シミュレーションで示されました。

回転速度とハッブル定数の関係(論文Figure 2より)。横軸が現在の宇宙の回転速度、縦軸が得られるハッブル定数。CMBと超新星の観測値のズレが、適度な回転により解消されることがわかる。
回転速度とハッブル定数の関係(論文Figure 2より)。横軸が現在の宇宙の回転速度、縦軸が得られるハッブル定数。CMBと超新星の観測値のズレが、適度な回転により解消されることがわかる。 / Credit:Szigeti et al. (2025), Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, CC BY 4.0.

宇宙が回るとはどういうことか?

では「宇宙が回転している」とは、どういうことなのでしょうか。

ここで言う回転は、空間の中のものが動いているのではなく、「空間そのものが角運動量を持っている」という考え方です。これは、空間と時間をあわせて扱う「時空」が、わずかにねじれているような状態です。

研究チームは、非膨張系の物理座標を使った数理モデルで、この時空の回転が膨張に与える影響を計算しました。

球対称系と円柱対称系における回転宇宙の模式図(論文Figure 3より)。粒子の流れが宇宙の膨張を表し、ωが角速度を示す。
球対称系と円柱対称系における回転宇宙の模式図(論文Figure 3より)。粒子の流れが宇宙の膨張を表し、ωが角速度を示す。 / Credit:Szigeti et al. (2025), Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, CC BY 4.0.

論文ではこのような図で、宇宙の膨張を粒子の“外向きの流れ”としてモデル化しており、その流れにわずかな回転を加えることで観測と整合する拡がり方になると説明しています。

宇宙が回ると時間も回るという疑問

宇宙が回転していると聞いて、多くの物理学者が真っ先に懸念するのが、「閉じた時間的ループ(Closed Time-like Curve, CTC)」の問題です。

私たちは「宇宙が回ると言われる」と、球体のようなものが回っている様子をイメージしてしまいがちですが、宇宙とは何らかの空間に浮かぶ物体ではなく、それ自体が時空(時間と空間)で構成された構造体です。

このような構造が回転した場合、時間まで回転するという解釈が生まれてくるのです。

そのため宇宙が回転していると、時空の構造がねじれ、ある特定の経路を通って未来から過去に戻るような“閉じた時間的ループ(CTC)”が生じる可能性があるのです。

これは理論的には“タイムトラベル”と同等の現象を意味し、因果律(原因と結果の順序)を破る深刻な問題となります。

こうした懸念に対処するため、今回のモデルでは、回転の強さを光速以下に抑えることで、こうしたループが発生しないように設計されています。

具体的には、宇宙の観測可能な地平面の内部で、どの点においても物体の運動が光速未満にとどまるよう、回転の強さ(ω₀)を制限しているのです。これにより、因果律(原因が結果に先立つというルール)を破るような構造にはなりません。

宇宙は静かに回っているのかもしれない

地球から3100万光年離れた渦巻銀河M51
地球から3100万光年離れた渦巻銀河M51 / Credit:NASA, ESA, S. Beckwith (STScI), and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)

「宇宙全体がゆっくりと回っている」というアイデアは、にわかには信じがたいかもしれません。

しかし、今まで説明できなかった“観測のズレ”を自然に解消できるとすれば、私たちの宇宙観を塗り替える発見になる可能性があります。

もちろん、この説はまだ仮説にすぎません。今後は一般相対論を用いたより正確なモデルの構築や、他の観測データとの整合性の検証が求められます。

それでも、「星も銀河も、ブラックホールもすべて回っているなら、宇宙全体も回っていてもおかしくはないのでは?」というシンプルな問いから始まったこの研究には、科学の原点である“素朴な疑問”の力強さを感じさせられます。

海外のネット上では、宇宙が回転しているというこの仮説が、宇宙が巨大な回転ブラックホールの内部に存在するというアイデアと関連するのではないか? という話でも盛り上がっています。これは、宇宙の起源や構造に関する我々の空想の幅も広げてくれます。

私たちが見上げる夜空は、もしかすると、壮大な回転の中で静かに広がっているのかもしれません。

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宇宙全体が回転していると考えれば「宇宙論最大の謎」を解決できるかもしれない (2/2)のコメント

ゲスト

因果律破れて困ることって何かあるんですかね?
理論が成り立たないとかそういうこと以外で。

    ゲスト

    この場合、時間と空間が同じと考えれば、
    回転時空が位置によって同じ進み具合ではないという事?

ゲスト

ゲーデルモデルが現実だったということか?

ゲスト

時空が角運動量を持ってると言うことは、宇宙には少なくとも特別な方向はあるという事でしょうか

自発的対称性の破れの例として磁石でよく出てきますが、これもそれの一種と考えられるんでしょうか

ゲスト

超新星爆発の後のガスの膨らみに回転はあるのでしょうか。ミニビッグバン的に相似性があれば面白いですが。

ゲスト

摩擦の無い場所においてあるものは、完全に無回転にするほうが難しいことを考えると、
時空が回っているほうが自然なのかもしれない

ゲスト

摩擦の無い場所に置かれたものを、完全に無回転にするほうが難しいことを考えると、
時空も回転していると考えるほうが自然なのかもしれない

ゲスト

閉じた時間的ループはなぜ懸念されるの?何も問題ないと思うけど

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