「重力=宇宙のZIP機能説」――私たちは巨大コンピューターの中にいる?

どうやって重力の正体が情報論的なものだと証明するのか?
一見すると世紀の難問に思えますが、ヴォプソン博士は非常にスマートな方法を思いつきました。
まずヴォプソン博士は、宇宙空間を細かいグリッド状の「情報セル(ピクセル)」に区切って考えるモデルを用意しました。
各セル(空間の一マス)はデータを保存するハードディスクのビットのようなもので、中身が空なら「0(ゼロ)」、物質が入ると「1(イチ)」として情報が記録されると想定します。
このモデルでは、一つひとつの素粒子はそれぞれ情報セルに存在し、宇宙全体は無数の0と1で表現されていることになります。
そしてヴォプソン博士はこのシミュレーション世界に、情報エントロピーは減少していくという情報力学第二法則を反映したルールを設定しました。
先にも述べたようにこれはヴォプソン博士らが提唱する法則で、宇宙における情報エントロピーは時間とともに増えず、一定か減少する傾向にあるというものです。
言い換えれば、宇宙(このモデル内の計算機的な宇宙)は情報をできるだけ散らかさず、むしろきちんと片づけて減らしていこうとする性質を持つと仮定しているのです。
シミュレーションもこのルールに従って、粒子が自発的に集合し情報エントロピーが減る方向へ系が進むようになります。
3Dゲームでも複数の物体が飛び回る様子を描くのに多くの計算力が消費されますが、それらをまとめて1つの塊とした場合、その様子を描くのに必要な情報や計算力は大幅に削減されます。
あるいは複数のファイルをまとめてZIPにすると管理が楽になり、必要となる演算力の節約につながることになります。
さらに重要なことに、シミュレーション空間のルールには「重力」のような物体同士が引き合う力を加えないようにしました。
一見すると、重力の設定が無ければ、シミュレーション空間内の物質はいつまでもバラバラのままのように思えますが、ヴォプソン博士はかまわずシミュレーションを実行しました。
するとあたかも重力が存在するかのように遠く離れて点在する物質同士が互いに引き寄せ合い、やがて全ての物質が一箇所に固まったのです。
この結果を受けてヴォプソン博士は、情報を圧縮して計算力を節約しようという基本ルールを設定すると、それこそが重力になると結論しました。
言い換えれば、重力とは宇宙がデータをひとまとめにして効率良く管理するために生じるZIPファイルのような力だという視点です。
ヴォプソン博士の主張は一見するとトンデモ理論に思えるかもしれません。
しかし重力という唯一無二の極めて特殊な現象を、情報の圧縮という演算機側のルール(情報力学第二法則)で再現できたという点は、驚きと言えるでしょう。
言い換えればこれは、情報力学第二法則の原理から重力が導き出される存在である可能性を示すからです。
ではこのような新たな視点は、物理学をどのように変えていくのでしょうか?