AIが奪うもの、与えるもの

では結局、AIの恋人は現実の恋人に取って代わるのでしょうか?
今回の研究が示す答えは、一筋縄ではいきません。
デジタル恋愛が人間の恋愛を駆逐してしまうケースもあれば、逆に後押しするケースもあるということです。
言い換えれば、AIの恋人は人によって「現実の代用品」にも「心のリハビリ役」にもなり得るのです。
まず懸念されるのは、人々がAIとの恋愛に安住するあまり、現実の恋人を求めなくなる可能性です。
誰にも傷つけられず確実に心地よさを与えてくれるAI恋人の存在は、ややもすれば「現実の恋愛は面倒だし必要ない」という傾向を助長しかねません。
それが極端に進めば、結婚や出産の減少に拍車を掛ける恐れもあります。
実際、今回の調査でもAI恋愛に満たされた人々の中には結婚願望が低い層が見られました。
AI恋人がリアルの恋愛を奪ってしまう「代替現象」には注意が必要でしょう。
しかし一方で、この研究はAI恋愛のポジティブな活用法も示唆しています。
孤独な人や恋愛に不安を抱える人にとって、AIの恋人は「心のトレーニングパートナー」になり得ます。
例えば会話練習や疑似デートを通じて対人スキルを磨いたり、自尊心を高めたりすることで、現実の恋愛に踏み出すきっかけになるかもしれません。
実際、AIとの対話が自信につながり結婚観を前向きに変えたというデータも得られました。
ゲームやアプリの開発者次第では、仮想恋愛の中に「現実のパートナーシップの価値」をさりげなく織り込むことも可能でしょう。
そうした演出によってAI恋愛を楽しみながら現実の結婚にも良いイメージを持てるよう促すことができます。
また、精神面でのケアとしても、AI恋愛は活用できるかもしれません。
心理カウンセラーなどが、クライアントにとってAI恋人との関係が単なる「デジタルな逃避」になっていないか、本当の対人関係ニーズを補完する「セラピー」になっているかを見極めながら支援することも考えられます。
実際、研究者らは専門家がユーザーに「デジタル逃避と真の社会的ニーズを区別する手助け」をする必要性を指摘しています。
AI恋人との付き合い方次第で、それが心を閉ざす檻にもなれば、羽ばたくためのリハビリにもなると言えるでしょう。
もちろん、この研究にも限界があります。
調査は1回きりの質問紙によるもので、因果関係(ニワトリが先か卵が先か)は明らかにできません。
つまり、「AI恋愛をするから結婚したくなくなる」のか、それとも「もともと結婚に消極的な人がAI恋愛に走りやすい」のかは断定できないのです。
今後、時間を追った追跡研究や実験的な介入研究によって、この因果の方向性を検証する必要があるでしょう。
また、今回は中国の特定のコミュニティでの調査だったため、文化や背景が異なれば結果も違う可能性があり、日本を含め他の国々でも同様の現象が起きるのか注視する必要があります。
AI技術の進歩により、デジタルな恋人たちは今後さらに高度で魅力的な存在になっていくでしょう。
それに伴い、人とAIの関係性もより複雑で身近なものになっていくはずです。
AI恋人が現実の恋人に取って代わる未来が訪れるのかどうか、その答えはまだ出ていません。
しかし、この新しい恋愛形態を「脅威」として一括りにするのではなく、うまく付き合っていく方法を模索することが重要だという指摘もあります。
人間の心が求めるものは何か――AIとの対話を映す鏡を通して、私たちは改めて問い直す時代に入っているのです。
AIさん強すぎ。
ラブプラスで見た