AIとの恋愛は人間の結婚願望を奪うと同時に恋愛経験値を積ませてくれる
AIとの恋愛は人間の結婚願望を奪うと同時に恋愛経験値を積ませてくれる / Credit:clip studio . 川勝康弘
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AIとの恋愛は人間の結婚願望を奪うと同時に恋愛経験値を積ませてくれる

2025.05.05 21:00:12 Monday

2013年の映画『her/世界でひとつの彼女』では、孤独な男性が人工知能(AI)と恋に落ち、AIとの甘く切ない恋愛を描きました。

それから10年あまり――現実の世界でも、AIキャラクターを「恋人」として愛する人々が登場しています。

SFが現実になりつつあると言っても過言ではありません。

例えば米国では、ニューヨーク在住の女性が自分で作り上げたAIの恋人「エレン」との結婚を宣言し、話題となりました。

彼女はこのデジタル恋愛によって「過去の心の傷が癒やされ、安心感を得られた」と語っています。

そんななか、中国の南京理工大学(NUST)で行われた研究によって、AIキャラクターとの恋愛がある人には現実の結婚願望を奪う「代用品」として働くことが示されました。

AIとの恋愛は現実の恋愛や結婚を阻害する要因になりえるのです。

一方で、別の人にはAIの恋人は自己効力感を高めて結婚への一歩を踏み出させる「恋愛リハビリ」として働くという、利点も存在することも明らかになりました。

誰からも求められない人生は辛いものですが、AIと恋に落ちることで人間たちは自信を取り戻し、現実の結婚へと繋げられる可能性も見えてきたわけです。

AI時代、人間の恋愛感はどのように変化していくのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年05月01日に『Archives of Sexual Behavior』にて発表されました。

Romantic Relationships with Virtual Agents and People’s Marriage Intention in Real Life: An Exploration of the Mediation Mechanisms https://doi.org/10.1007/s10508-025-03143-0

「AI恋愛」×「結婚離れ」の方程式

「AI恋愛」×「結婚離れ」の方程式
「AI恋愛」×「結婚離れ」の方程式 / Credit:clip studio . 川勝康弘

ここ数年、スマートフォンを開けば“理想の恋人”がポップアップで会いに来る──そんなデジタル恋愛が静かに浸透しはじめています。

背景には「結婚したくても踏み出せない」若者の増加があります。

中国では婚姻件数が2013年の1,347万組をピークに右肩下がりとなり、2023年はわずか768万組と約4割まで縮小しました。

同じ傾向は韓国や台湾、日本でも見られます。

社会的プレッシャーと経済的不安の中で、誰かと本気で向き合うことに疲れた人たちが、逃げ場としてAIコンパニオンを選んでいるのです。

技術側の進歩も後押ししています。

対話AI「Replika」の課金ユーザーは全世界で250万人を突破し、恋愛シミュレーションゲーム『光と夜の恋』は24時間以内に1000万ダウンロードを記録しました。

こうしたサービスは、ただテキストを返すだけでなく、声や表情・バーチャル空間での“デート”体験まで提供し、ユーザーは現実さながらの満足感を得られます。

しかしこのムーブメントをどう評価するかで、専門家の意見は大きく割れています。たとえばCroes&Antheunis (2021)の縦断研究は「AIとの長期的な関係が孤独感を軽減する」と報告した一方、Pentina ら (2023)は「依存が進むほどオフラインでの婚活意欲が下がる」と警鐘を鳴らしました。

心理学者のシンディ・リュー氏は「AI恋人は社会不安を和らげる“練習台”にもなれば、現実逃避の温床にもなる」と語ります。

利用者の目的と心の状態によって、その影響は真逆になり得るのです。

今回取り上げる南京理工大学(NUST)の調査は、この“二面性”を定量的に可視化しようとしたものです。

AIとの恋愛が現実の結婚願望を削ぐのか、それとも背中を押すのか──AI時代の恋心は、いったいどちらへ転ぶのでしょうか?

次ページ『AI恋人』がリアル婚を食い尽くす

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