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ヘビ毒856回注射した男から猛毒19種に効く抗毒素が開発される / Credit:Canva, Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部
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856回ヘビの毒を注射した男のハイパー抗体から「猛毒19種から保護する抗毒素」が誕生!【ヘビ毒の万能薬へ】

2025.05.06 06:30:45 Tuesday

自分の体にヘビの毒を856回も注射するーーそんな狂気の行動が、世界中の命を救うかもしれません。

信じがたいこの話は、実際にアメリカで行われた最先端の免疫学研究に基づいています。

バイオ医薬企業Centivax社の研究チームは、「世界で最も危険なヘビ毒19種に効く広域解毒カクテル」を開発中だと報告しました。

すでにマウス実験ではその成果が出ており、年間10万人の命を奪うとされる毒ヘビ咬傷に対して画期的な治療法として注目されています。

狂気の行動から「ヘビ毒の万能薬」が生まれようとしているのです。

この成果は、2025年5月2日付の科学誌『Cell』に掲載されました。

One man, 856 venom hits, and the path to a universal snakebite cure https://newatlas.com/biology/universal-snakebite-cure-man-856-venom-hits/ This man injected himself with snake venom 856 times, helping create an antivenom for all snakes https://www.scimex.org/newsfeed/a-man-injected-himself-with-snake-venom-856-times-and-may-have-helped-create-an-antivenom-for-all-snakes
Snake venom protection by a cocktail of varespladib and broadly neutralizing human antibodies https://doi.org/10.1016/j.cell.2025.03.050

ヘビ毒を856回も注射した男性から「ハイパー抗体」が得られる!

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ヘビ毒による死者は後を絶たない / Credit:Canva

蛇に咬まれて死亡する事故は、21世紀に入った今なお、特にアジアやアフリカの農村地帯で頻発しています。

WHOの推計によれば、毎年8万人から13万8千人がヘビにより命を落とし、30万人から40万人が四肢切断などの重い後遺症を負っているとされています。

現在の標準治療は、主に馬などの動物に毒を注射して、その血液から抗体を取り、それを人間に投与する血清療法です。

しかしこの手法には、特定の毒ヘビにしか効かないこと、副作用が出やすいこと、動物に依存しており保存も困難であることなど、さまざまな課題があります。

そのため、どの毒ヘビにも効くヒト由来で安全な解毒薬が長年求められてきました。

このような背景の中で、異色の人物が現れました。

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ヘビ毒856回注射した男からハイパー抗体が得られる / Credit:Canva, Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

2001年から17年間にわたり、世界中の毒ヘビの毒を自身の体に合計856回も注射した男性がいたのです。

彼(ティム・フリード氏)は、少量の毒を何度も体に打ち込むことで免疫系を鍛え、どんな毒にも反応できる抗体を自らの体内に作り出そうとしていました。

彼が扱った毒には、ブラックマンバ、タイパンなどが含まれており、その種類は極めて多様です。

そして、この“ハイパー免疫者”の血液は、まさに解毒剤の宝庫でした

彼の体は、一度に数種類のヘビの神経毒に効果のある抗体を生成していたのです。

そこで研究チームは彼の血液から毒に対して幅広く反応する抗体を選別しました。

その結果、2種類の強力な抗体(LNX-D09とSNX-B03)が発見されました。

さらに、既存の毒素阻害剤であるバレスプラジブ(varespladib)を加えることで、3成分からなる解毒カクテルが完成したのです。

次ページ「3剤カクテル」は猛毒19種に保護効果を示す!万能薬の誕生に近づく

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