ヘビ毒を856回も注射した男性から「ハイパー抗体」が得られる!

蛇に咬まれて死亡する事故は、21世紀に入った今なお、特にアジアやアフリカの農村地帯で頻発しています。
WHOの推計によれば、毎年8万人から13万8千人が毒ヘビにより命を落とし、30万人から40万人が四肢切断などの重い後遺症を負っているとされています。
現在の標準治療は、主に馬などの動物に毒を注射して、その血液から抗体を取り、それを人間に投与する血清療法です。
しかしこの手法には、特定の毒ヘビにしか効かないこと、副作用が出やすいこと、動物に依存しており保存も困難であることなど、さまざまな課題があります。
そのため、どの毒ヘビにも効くヒト由来で安全な解毒薬が長年求められてきました。
このような背景の中で、異色の人物が現れました。

2001年から17年間にわたり、世界中の毒ヘビの毒を自身の体に合計856回も注射した男性がいたのです。
彼(ティム・フリード氏)は、少量の毒を何度も体に打ち込むことで免疫系を鍛え、どんな毒にも反応できる抗体を自らの体内に作り出そうとしていました。
彼が扱った毒には、ブラックマンバ、タイパンなどが含まれており、その種類は極めて多様です。
そして、この“ハイパー免疫者”の血液は、まさに解毒剤の宝庫でした。
彼の体は、一度に数種類のヘビの神経毒に効果のある抗体を生成していたのです。
そこで研究チームは彼の血液から毒に対して幅広く反応する抗体を選別しました。
その結果、2種類の強力な抗体(LNX-D09とSNX-B03)が発見されました。
さらに、既存の毒素阻害剤であるバレスプラジブ(varespladib)を加えることで、3成分からなる解毒カクテルが完成したのです。