好きになる瞬間と「恋人には無理」と思われる理由
それでは、なぜ「友人だと思っていた相手を急に好きになる」ことが起きるのでしょうか。
これには心理学の「単純接触効果」という考え方が関係しています。
人は、繰り返し会ったり話したりする相手に対して、好意を抱きやすくなる傾向があります。
最初は何とも思っていなかった相手でも、一緒に過ごす時間が増えるうちに「この人って意外と優しい」「すごく理解してくれている」といった新しい面に気づき、恋愛感情が芽生えることがあるのです。
いわば「友情が恋愛に発展するスイッチ」が存在しており、それが長く一緒に過ごすことで無意識にONになる瞬間があるのです。
とはいえ、単に長く過ごせば誰でも恋愛感情を抱くわけではありません。好きになる場合と、そうでない場合がある理由はなんなのでしょう?
ここで重要なのが、恋愛における「ドキドキ感」の存在です。
恋愛的なドキドキは、ただ一緒にいて楽しいとか安心できるといった感情とは違い、身体の中で起きる特別な反応です。
恋愛の初期には、ドーパミンという「快感」に関係する物質や、ノルアドレナリンという「興奮」を高める物質が脳内に多く分泌されます。
このノルアドレナリンは心拍数を上げたり、手に汗をかかせたりする働きがあり、これがいわゆる「胸が高鳴る」感覚を生み出しています。
進化心理学では、こうしたドキドキ感は「注意して観察する価値のある異性に出会ったとき、集中を促す仕組み」として働いたと考えられています。
しかし、この体の反応が、理性で物事を判断しようとする現代の人間にとっては逆に働き、「ドキドキする → 相手に興味がある・恋愛感情がある」と無意識に結びつける仕組みになってしまっているようです。
これは「情動のラベリング(labeling of emotional state)」と呼ばれる現象で、人は自分の体の変化の理由を考え、恋愛感情として認識することがあるのです。
この現象は一般向けには、「吊り橋効果」として有名です。これは、人が緊張や不安で身体が興奮状態にあるときに、その原因を目の前の相手への恋愛感情と誤って結びつけやすくなることを指します。

高い場所にある吊り橋を渡った後など、体がドキドキしている状態で異性と会話をすると、「この人に惹かれているからだ」と感じやすくなります。つまり、恋愛的なドキドキは、相手への期待や未知の部分、不確実さが生み出す心と体の特別な高まりなのです。
しかし、すべての相手にドキドキを感じるわけではありません。恋愛的なドキドキを感じにくい要因もあります。
例えば、相手が自分の理想とする外見や雰囲気、価値観と一致しないと無意識に判断している場合や、相手と長く安定した関係を築きすぎて家族のような安心感が強くなった場合です。
相手が理想と違うと感じてときめかないという現象は、生物学的には遺伝子適合性やフェロモンレベルの相性が影響する可能性が指摘されています。
また、安心感が勝ちすぎると脳内の興奮物質の分泌が減り、「恋愛のときめき」は生じにくくなります。恋愛漫画などでは、妹みたいにしか感じられない、という理由で告白を断られたりするシーンがありますが、こうした原因は、相手に安心感を与えすぎてしまっていることが原因でしょう。
そのため恋愛には、相手をドキドキさせる要因が切り離せない問題になるようです。
このように、友人と恋人の間の意識の変化は、単なる相性だけではなく、人が無意識に抱く期待や、ドキドキという生理的・心理的な反応によって決まっているのです。