“塩基4つ”で回路まで変わる――脳進化の新シナリオ

今回の研究で明らかになったのは、ヒト特異的なエンハンサー配列が脳の発生プログラムを微調整し、結果としてより大きく高度な脳をもたらす仕組みです。
ヒト型HARE5を持つマウスでは、胎児期の神経幹細胞が通常より長く自己増殖し、その後に産生されるニューロン(神経細胞)の量も増加しました。
このようにしてニューロンの総数が増え、大脳皮質が厚みと面積を増したと考えられます。
興味深いことに、改変マウスの脳では神経活動のパターンにも変化が見られ、各皮質領域の活動が互いに以前より独立して動くようになっていました。
つまり、一部の脳領域が活性化しても他の領域には波及しにくく、それぞれの領域がより専属に働く度合いが増していたのです。
脳が大型化して回路のモジュール性(独立性)が高まることで、情報処理の分業・専門化が進む可能性が考えられます。
たった数カ所のDNA塩基変化がこのような発生過程と神経ネットワークの構築に大きな影響を及ぼしうることは驚きです。
実際、本研究で対象となったHARE5はヒトとチンパンジーの間でわずか4カ所の違いしかありませんでした。
それにもかかわらず、このわずかな変異がニューロンを生み出すシグナル経路の制御バランスを変え、脳のサイズや回路網の特性を大きく変えていたのです。
言い換えれば、ゲノムのごく微小な変化が人類の卓越した脳の進化を可能にした基盤の一部だったのかもしれません。
もっとも、ヒトの脳進化というパズルがこれですべて解明されたわけではありません。
他にも数千に及ぶHARが存在し、それらが脳や認知機能の発達に寄与している可能性があります。
デューク大学のデブラ・シルバー博士(本研究の責任著者)は「人間の脳を現在のような人間の脳たらしめている仕組みは、実に多岐にわたります」と強調し、HARE5はその一部に過ぎないと指摘します。
研究チームは今後、HARE5以外のHARも含めた包括的な解析を進め、ヒト特異的なDNA上の変化がどのように相互作用して人間の脳を形作ったのかを明らかにしたいとしています。
これが神聖四文字ってやつですね。
なんか最近の遺伝子研究って踏み込んじゃいけない領域まで来てる気がするな