画像

biology

体内時計は22億年前に時を刻み始めた:最古の体内時計を再現することに成功

2025.05.21 21:00:29 Wednesday

22億年前の地球――一日の長さがおよそ20時間と、現在よりも短かったこの時代に、生物の「時計」が動き出しました。

日本の福井県立大学(FPU)で行われた研究によって、光合成を行うシアノバクテリア(ラン藻)の祖先が約22億年前に世界で初めての体内時計(概日リズム)を獲得し、当時の短い日周期に合わせて「次の日の出」を先読みできる分子装置を持っていたことが明らかになりました。

研究チームはこの最古の生物時計を現代に蘇らせ、試験管内でそのリズムを再現することにも成功しています。

その様子はまるで、分子でできたタイムマシンが太古の地球の夜明けを告げているかのようです。

研究内容の詳細は2025年5月15日に『Nature Communications』にて発表されました。

【プレスリリース】最古の体内時計が日の出を知らせた約22億年前のある日 https://www.soken.ac.jp/news/2025/20250520.html
Evolutionary origins of self-sustained Kai protein circadian oscillators in cyanobacteria https://doi.org/10.1038/s41467-025-59908-7

日の出を先読みせよ:謎だった時計の起源を追う

日の出を先読みせよ:謎だった時計の起源を追う
日の出を先読みせよ:謎だった時計の起源を追う / 図1は、シアノバクテリアの「体内時計」がいつ動き始めたのかを、タイムトラベルのようにたどった一枚絵です。まず上側には時計タンパク質の“家系図”があり、そこに五つのカラフルな星がくっついています。この星は「昔のシアノバクテリアが持っていたであろう時計タンパク質」を復元した5つの年代――およそ31億年前、26億年前、22億年前、13億年前、1億年前――を示しています。研究チームは、星ごとにその古代タンパク質を実際に合成し、下側の試験管で「動くかどうか」を確かめました。波形がまっ平らなら時計は止まったまま、規則正しい山と谷が続けば“チクタク”動いた証拠です。平らだった26億年前の波が、22億年前の星では初めて大きな山と谷になり、ここで体内時計が本当に動き出したと分かりました。つまり図1は、「22億年前に時計がスタートした」という決定的瞬間を、家系図と波形のセットで誰でも見てわかるように示した図なのです。/Credit:【プレスリリース】最古の体内時計が日の出を知らせた約22億年前のある日

太古の地球に登場した光合成細菌たちは、太陽の光エネルギーを使って水から酸素を作り出し、二酸化炭素を有機物に変えることで繁栄し始めました。

しかし太陽が地表を照らすのは昼間だけで、夜間は暗闇が続きます。

昼に備えて高度に発達した光合成システムを、日が沈んだ後まで動かし続けるのはエネルギーの無駄です。

そこで生まれたのが「体内時計」という仕組みでした。

生物が自らの中に持つ時計――概日時計とも呼ばれるこの機構は、昼夜の周期に合わせて代謝や行動のリズムを刻みます。

例えば現在のシアノバクテリアでは、光がなくなる夜間に光合成関連の活動を低下させ、再び朝日が昇る時刻に向けて準備を整えることで、エネルギー効率よく生き延びています。

多くの生物がそれぞれ独自の体内時計を持ちますが、どの生物時計も概ね24時間前後の周期で動き、温度変化に影響されにくく、環境の明暗サイクルに同調してリセットできるという共通の特徴を持っています。

しかし肝心の「光合成を行う微生物が、日の出・日の入りを予測するシステムをいつ、どのように獲得したのか」は長らく謎のままでした。

その進化の歴史を探ることは、生命が時間を測る戦略の起源を解明する上で重要なテーマです。

研究チームを率いた福井県立大学の向山厚准教授は「現存のシアノバクテリアは地球の自転による昼夜の周期を予測して効率的な光合成を行うために概日時計を利用しています。

我々は、古代のバクテリアがいつ概日時計を獲得し、どのように現在のシアノバクテリアに受け継がれたのか、その進化の歴史を知りたいと考えました」と語っています。

次ページ22億年前モデルだけが時を刻んだ──驚きの“18時間リズム”

<

1

2

3

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

生物学のニュースbiology news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!