“時間を知る力”が酸素革命を呼んだ
今回の発見は、生命が「時間を測る能力」をいかに生存戦略に活かしてきたかを物語っています。
シアノバクテリアは原子レベルで時計の機能を維持しながら、リズムから現在の時刻を読み取ることで「いつ夜が明け、いつ日が沈むか」を常に把握し続けてきました。
約22億年前にこの能力を手にして以来、地球が全球凍結する過酷な氷河期や大気組成が激変する事件(酸素濃度の急上昇や低下)など幾多の困難を乗り越え、生き延びてきたのです。
光合成によるエネルギー獲得と利用のシステムを時間で管理することが、生命の存続に不可欠だったことが分かります。
さらに本研究は、時間の知覚が今の人類社会にとっても重要であることを示唆しています。
22億年にわたるシアノバクテリアの体内時計の歴史は、エネルギー問題や生態系維持、そして宇宙探査といった現代の課題においても「適切に時刻を把握すること」の大切さを教えてくれると研究者らは述べています。
例えば、人類が将来宇宙空間や他の惑星で長期間活動する際には、現地の昼夜サイクルに即した生物時計の調整が健康維持や植物の栽培に欠かせないでしょう。
また今回の研究のように、分子レベルの証拠から地球の自転変化を読み解くという学際的なアプローチも注目に値します。
従来、古代の一日の長さを調べるには地層や化石の分析、あるいは物理シミュレーションや歴史文書の解析などが行われてきました。
しかし本研究は、タンパク質という生物の「化石」を復元することで、地質学の謎に新たな光を当てています。
約22億年前の朝、小さなバクテリアの中で動き始めた時計は、長い時を超えて今も脈々と刻み続けられています。
生命が紡いできたこの“時間の秘密”は、私たち人類にとっても大いなるヒントになるかもしれません。
「時間を制する者が生命を制す」――太古の地球で誕生した分子の時計は、そう語りかけているようです。