睡眠時無呼吸治療薬AD109が大規模臨床試験で驚きの効果:寝る前1錠で無呼吸発作が55%減

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睡眠時無呼吸治療薬AD109が大規模臨床試験で驚きの効果:寝る前1錠で無呼吸発作が55%減 (3/3)

2025.05.28 17:00:04 Wednesday

前ページ2:睡眠時無呼吸症候群に薬で立ち向かう時代が来た

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3:睡眠医療に新時代

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3-1:専門家も賞賛

今回の成果に対し、睡眠医療の専門家や患者支援団体からは期待の声が上がっています。

SynAIRgy試験の主席研究者を務めた米ピッツバーグ大学医学部のパトリック・ストローロ医師は声明で「今回の第3相試験の結果は非常に心強いもので、睡眠時無呼吸症候群治療に久しく欠けていたイノベーションがもたらされる可能性を示している」と評価しました。

ストローロ医師は「長年、睡眠時無呼吸症候群の進歩は停滞し、多くの患者が持続可能な治療法を得られずにいました。SynAIRgyの結果は、もし承認されればAD109が睡眠時無呼吸症候群の気道閉塞という神経筋の根本原因に作用する画期的な経口薬として幅広い患者層に新たな治療選択肢を提供しうることを示唆しています」と述べ、治療パラダイムを変革し得る潜在力に太鼓判を押しました。

また、米国の患者支援団体「睡眠時無呼吸パートナーズ」代表のモニカ・ランパリリ氏も「睡眠時無呼吸症候群は男女あらゆる年代・人種・体格の人々に影響を及ぼす深刻かつ一般的な慢性疾患で、本来公衆衛生上の最優先事項として扱われるべきです。にもかかわらず治療の選択肢は長らく限られており、新たな治療法は待ち望まれていました。今回示されたSynAIRgyの結果は、経口療法が視野に入ったことで患者が自分の睡眠時無呼吸症候群をより手軽に管理し、人生を取り戻せるかもしれないという希望を与えるものです」とコメントしています。

実際、鼻マスクの装着に悩まされてきた患者にとって「寝る前の一錠」で同等の効果が得られる可能性は朗報であり、医師の間でも「睡眠医療のゲームチェンジャーになり得る」との声が聞かれます。

一方で、この薬が万人に効く万能薬ではないことも念頭に置く必要があります。

たとえば今回の結果では、平均すると無呼吸発作が半減しましたが、それでも完全には睡眠時無呼吸症候群が残ってしまう患者もいます(重症の人ではAHIが40から18に減ったとしても、まだ中等度の無呼吸が残存する計算です)。

CPAPマスクであれば適切に使用すれば無呼吸をほぼ100%抑制できますが、AD109の効果はそれに比べれば現時点では約50%の改善に留まります。

しかしながら「50%でも改善すれば睡眠の質は大きく向上し、長期的な健康リスクも下がる」という見方もあります。

特にCPAPマスクを使えず無治療でいるよりは、薬で半減させるだけでも心血管リスクの低減や日中の眠気改善につながる可能性が高いでしょう。

専門家は「どの患者が特にこの薬の恩恵を受けやすいのか(例えば軽症〜中等症で肥満のないタイプにより有効なのか等)を今後見極める必要がある」と指摘しています。

また、有効率22.3%という「完全にコントロールできた患者」の特徴を解析し、治療前に予測できれば理想的です。

AD109は睡眠中の交感神経活動を高めるため、若干の心拍数・血圧上昇を伴う可能性があります。

したがって「睡眠の質向上によるメリットと、若干の心血管への負荷増加とを天秤にかけて、総合的に健康にプラスかどうか評価する必要がある」という慎重な意見もあります。

幸い今回の試験では重大な副作用は見られませんでしたが、長期的な安全性や効果が持続するかについて、引き続き検証が求められます。

3-2:2026年には睡眠時無呼吸症候群の薬が認可される見通し

今回のAD109の成功は、睡眠医学における「精密医療(Precision Medicine)」の流れを加速させるものとして注目されています。

睡眠時無呼吸症候群は患者ごとに原因の組み合わせが異なり、肥満による気道狭窄が主因の人もいれば、筋肉の神経調節機能低下が主体の人、あるいはその両方が関与する人もいます。

そのため一種類の治療では全員を満足させることが難しく、複数のアプローチを組み合わせて対応する「オーダーメイド治療」が理想とされます。

今回のAD109は神経筋の機能低下に着目した治療ですが、他にも解剖学的原因に対処する治療として減量薬や外科手術、歯科装具、あるいは最近登場した舌下神経刺激デバイス(埋め込み式ペースメーカーで舌の神経を直接刺激する治療)などがあります。

実際、2024年末には肥満のある睡眠時無呼吸症候群患者向けに体重管理薬(糖尿病治療薬でもあるチルゼパチド)が米国食品医薬品局に承認され、これが睡眠時無呼吸症候群初の経口治療薬となりました。

しかしこの薬は肥満が原因のケース限定であり、痩せた人や神経筋要因の強い睡眠時無呼吸症候群には効果が期待できません。

一方AD109は肥満の有無に関係なく、軽症から重症まで幅広い睡眠時無呼吸症候群の患者に効果を示しており、既存治療では救えなかった層に光を当てるものです。

「糖尿病にインスリンだけでなく飲み薬が多数あるように、睡眠時無呼吸症候群も様々な作用機序の複数の薬剤を揃えることで、患者ごとの多様な病態に対応できるようになるだろう」と研究者らは展望しています。

SynAIRgy試験の詳細データは2025年中に専門の学会や学術誌で発表される予定であり、現在並行して実施中の2つ目の第3相試験「LunAIRo(ルネイロ)試験」からも2025年第3四半期に結果が得られる見通しです。

LunAIRo試験ではAD109を1年間投与した場合の持続効果や安全性を評価しており、SynAIRgy試験と合わせて十分なデータが揃えば、製造元のApnimed社は2026年初頭にも米国食品医薬品局へ新薬承認申請を提出する計画です。

審査が順調に進めば、2026年中にも米国でAD109が市販薬として登場する可能性があります。

もし実現すれば、睡眠時無呼吸症候群の治療は大きな転換点を迎えるでしょう。

患者は機械に縛られずに済み、医師は「この患者さんには減量薬、こちらの患者さんには筋肉刺激薬」といった具合に、原因に応じた治療を選択できるようになります。

睡眠医学の専門家は「今回の成果は睡眠医療の新たな夜明けであり、シンプルな経口薬で人々に酸素と活力ある睡眠を取り戻させるという長年の夢が現実に近づいた」と述べています。

今後の追試験や規制当局の判断に注目が集まりますが、いびきに苦しむ世界中の人々に朗報を届ける日はそう遠くないかもしれません。

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睡眠時無呼吸治療薬AD109が大規模臨床試験で驚きの効果:寝る前1錠で無呼吸発作が55%減 (3/3)のコメント

ゲスト

薬の内容的にはわりと強そうな薬ですから人によっては合わなさそうですね。
でもそれくらいしないと効かないというくらい相手も手強いのでしょうね。

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