ネットに溢れる過剰なスキンケア情報

研究を主導したのは、ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部(Feinberg School of Medicine)の皮膚科医モリー・ヘイルズ(Molly Hales)博士と、医療社会学の専門家タラ・ラグー(Tara Lagu)博士です。
研究チームは、13歳の少女を装ったアカウントを作成し、TikTokの「For You」ページでスキンケア関連の動画を閲覧。その中から、7歳から18歳の少女が出演する人気スキンケア動画100本を収集して分析しました。
動画の多くは、1本につき平均6種類のスキンケア製品を使用しており、多いものでは10種類以上の活性成分(肌に働きかける有効成分)を含む製品が併用されていました。
中でも注目されたのは、レチノール(retinol)やAHA(アルファヒドロキシ酸)など、本来は成人向けに設計された高機能な成分が多く使われていたことです。
たとえばレチノール(retinol)は、ビタミンAの一種で、肌のターンオーバー(新陳代謝)を促進する作用があります。 古い角質を排出しやすくし、ニキビや色素沈着、小じわの改善に効果があるとされ、大人向けのスキンケアによく使われています。
しかしその一方で、角質層が薄くなって肌が外部刺激に対して敏感になるため、乾燥や赤み、皮むけ、かぶれといった副作用が起きやすくなります。
10代の肌はもともと代謝が活発で、こうした作用を必要としない場合が多いため、レチノールを使うことで角質が薄くなりすぎ逆に肌荒れやバリア機能の低下を招く恐れがあります。
AHA(アルファヒドロキシ酸)もまた、古い角質を取り除いて肌をなめらかにするピーリング効果を持つ成分ですが、使いすぎると乾燥や炎症を招く恐れがあります。
これらの成分は適切に使えば効果も期待できますが、頻度や濃度を誤ると健康な肌にダメージを与えるリスクがあるのです。
また、実際に使用されている製品をそろえた場合のコストも無視できません。
調査によると、動画で紹介されたスキンケアの月額コストは平均で約168ドル(約2万5千円)にのぼり、一部のルーティンでは月500ドル(約7万5千円)を超えていました。こうした高額なケアを10代が当然のように真似する傾向も確認されています。
研究者たちが特に問題視したのは、これらのスキンケア動画が単なる美容の紹介にとどまらず、過剰な美容意識や社会的プレッシャーを助長しているという点です。 特にこれらの動画ではブランド志向が強く、中にはスキンケアそのものよりも高級ブランド製品を使うことの優越感が強調されてしまい、目的と手段が入れ違っているケースも見られました。
先の実際10代の肌には有害な場合があるという点と併せて考えると、TikTok上で拡散されるスキンケア習慣には、単なる「美容の流行」や「肌の健康を保つ」という目的から逸れた、社会的・身体的リスクが潜んでいると言えます。
今回の研究チームが目指したのは、まさにその構造を明らかにし、10代の肌にとって本当に必要な情報やケアのあり方を問い直すところにありました。