地球を直撃した「ありえない粒子」は暗黒物質だった――最新研究が発表
地球を直撃した「ありえない粒子」は暗黒物質だった――最新研究が発表 / Credit:Canva
space

地球を直撃した「ありえない粒子」は暗黒物質だった――最新研究が発表 (2/3)

2025.06.13 21:00:45 Friday

前ページニュートリノだとすると矛盾が多すぎる

<

1

2

3

>

地球に突き刺さったのは“暗黒ビーム”だったのか?

地球に突き刺さったのは“暗黒ビーム”だったのか?
地球に突き刺さったのは“暗黒ビーム”だったのか? / Credit:Canva

220ペタ電子ボルトの超高エネルギー粒子は暗黒物質に由来するのか?

謎を検証するため研究グループ(米ワシントン大学セントルイス校やテキサスA&M大学、インド工科大学グワハティ校などの共同チーム)は、複数の理論を見合わせて暗黒物質がかかわるシナリオを計算しました。

そのシナリオとは、「遠方のブレーザーが加速した暗黒物質が地球に飛来し、地球内部で通常物質と衝突して新たな粒子を発生させ、それが検出された」というものです。

ブレーザーとは何か?

ブレーザーを一言でいえばクエーサーがこちらにライトを向けている特別バージョン」です。そもそもクエーサーとは、銀河の中心で超巨大ブラックホールが莫大なエネルギーを放つ“活動銀河核”の代表選手で、その多くは両極から光速近いジェットを噴き出しています。太陽の数兆倍(10¹³倍前後)もの光を放つ「宇宙最大級の灯台」とも言われておりその輝きは天の川銀河全体を合わせた明るさの千倍以上に達することも珍しくなく、もしクエーサーをわずか数メガパーセク(数千万光年)程度の距離に置けば、夜空は月明かりのように白み、星座は見えなくなると言われるほどです。代表格の 3C 273 ではブラックホール質量が太陽の十億個分ほどで、私たちの銀河中心ブラックホール(約四百万太陽質量)の二百倍以上も重いと推定されています。そこから噴き上がるジェットは光速の九割以上(90~99%)で走り、時に十万光年を超えて銀河の外へ突き抜けます。

ブレーザーも同じブラックホールのジェットを持つ点ではクエーサーと仕組みはまったく同じですが、決定的に違うのは私たちの見ている角度です。クエーサーのジェットが横向きや斜めに伸びていれば、遠くからは比較的おとなしく見えます。一方、ジェットの片方がほぼ地球の方向を向いているのです。サーチライトを真正面から浴びるように、ガンマ線や高エネルギー粒子が集中して飛んできます。この“正面衝突”状態にあるクエーサーを特にブレーザーと呼ぶのです。要するにジェットそのものは共通で、ブレーザーとクエーサーの違いは構造ではなく「私たちから見た向き」による呼び分けだと考えると、イメージしやすいでしょう。

暗黒物質そのものは光を放ちませんが、地球内部で物質と反応を起こすことで結果的に光を伴う粒子(ミュー粒子の飛跡として観測されるチェレンコフ光)を生み出す――言わば「暗黒物質が地球の中で発光した」ように見える現象です。

この仮説に基づけば、KM3-230213Aイベントはニュートリノではなく暗黒物質が引き起こした事象だった可能性があります。

そこで研究チームは、暗黒物質が「地球で光る」仕組みを説明するために二つの反応パターンを考えました。

ひとつめは“二段階ジャンプ”型です。

宇宙から飛び込んできた暗黒物質の粒(χ)が地殻中の原子核にぶつかると、一瞬だけエネルギーをたっぷり吸い込んだ興奮状態(χ*)に跳ね上がり、すぐに元の姿(χ)へ戻る際にミュー粒子という兄弟粒子を二つ放り出します。

もうひとつは“ワンショット生成”型です。

暗黒物質 χ が原子核と衝突した瞬間に未知の仲介粒子 Z′を吐き出し、この Z′がほとんど時間をおかずにミュー粒子のペアへ崩れるというものです。

どちらの道筋でも最終的にミュー粒子が二本、地面の下から水中へ突き抜け、KM3NeT や アイスキューブ の光センサーに青い閃光を刻んで行きます。

検出器はミュー粒子の飛跡を一本の光の線としてしか見分けられないため、この二本が同時に飛び込んでも“一発”の出来事として記録されます。

画像
Credit:Canva

次に研究チームは、暗黒物質の粒がどれくらい他の物質とぶつかりやすいか(散乱断面積)、仲介粒子 Z′の短い寿命、さらに“弾丸”を撃ち出すブレーザーの明るさやフレアの長さなどを変えながら計算を重ねました。

すると地球から約七十億光年先(赤方偏移 z≈1)のブレーザーが、たった二年間だけ大噴火して暗黒物質をビームのように撃ち出す状況でも、KM3NeT には年に一度レベルで事象が入り込むとわかったのです。

南極のアイスキューブでは同じ粒子が通る地下の距離が短く、途中でぶつかって光る確率がずっと下がるため、同クラスの信号がほぼ見えなかった理由も自然に説明できます。

さらにこのモデルは検証可能な宿題も残しました。暗黒物質が本当に関与しているなら、アイスキューブ でも数年観測を続ければ 0.3〜3 件程度の“似たような超高エネルギーイベント”が顔を出すはずだ、というのです。十年分のデータでゼロだったのは、単に頻度が低くてくじを外し続けただけかもしれません。

だからこそ研究者たちは「次こそ アイスキューブ が小さな当たりくじを引くかどうか」をじっと見守っています。もし予言が的中すれば、今回の暗黒物質シナリオは思いつきではなく、本当に宇宙を説明する新しい鍵になるでしょう。

この予測は重要で、単なる思いつきの理論ではなく将来的に反証・実証が可能な科学的仮説であることを意味します。

次ページ暗黒物質説は宇宙像を書き換えるか

<

1

2

3

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

宇宙のニュースspace news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!