星の生まれる前から存在したブラックホール

宇宙にはさまざまなブラックホールがありますが、特に銀河の中心にある「超大質量ブラックホール」は、数百万~数億個分の太陽が集まったほどの巨大さを持ちます。
例えば、私たちの天の川銀河の中心にも、このような超巨大なブラックホールが存在しています。
このようなブラックホールはどうやってできたのでしょうか?
これまでの天文学では、ブラックホールは星が一生を終えるときの「超新星爆発」という大爆発を経て誕生すると考えられてきました。
太陽より何十倍も重い星が寿命を迎えて大爆発すると、その中心がぎゅっと潰れて小さなブラックホールができます。
こうしてできた小さなブラックホールは、その後、周りにあるガスや星などの物質を少しずつ引き寄せ、長い時間をかけて徐々に大きく成長すると考えられていました。
しかし最近の観測では、この考え方では説明できない謎が見つかっています。
なんと、宇宙が誕生してからたった数億年しか経っていない非常に早い時代に、すでに超巨大なブラックホールが存在していたという証拠が見つかったのです。
これは驚くべき発見でした。
なぜなら、星の誕生と死を経てゆっくりブラックホールが育つという従来の考え方では、宇宙の初期にそれほど巨大なブラックホールが生まれる時間的な余裕がないからです。
この新しい謎に対して提案されたのが、「原始ブラックホール(PBH)」という仮説です。
この仮説によると、宇宙の始まりであるビッグバンの直後、宇宙は想像を絶するほどの超高密度で満たされていました。
このような超高密度の状態では、ちょっとした密度の偏りがあっただけでも、その部分が自分自身の重力で一瞬にして崩れ落ち、ブラックホールが誕生した可能性があるのです。
通常、ブラックホールができるには、星のような巨大な物質が重力で潰れる必要がありますが、ビッグバン直後の高密度宇宙では、ごくわずかな偏りでもブラックホールを簡単に生み出せるほど物質がぎっしり詰まっていたのです。
こうして生まれたのが「原始ブラックホール(PBH)」です。
原始ブラックホールが普通のブラックホールと違うのは、星が誕生するずっと前の、宇宙の誕生からたった1秒以内という超初期に生まれたという点です。
つまり、星や銀河が形成される前から宇宙にはすでにブラックホールが存在していた可能性があるのです。
もし原始ブラックホールが存在するとすれば、それらは宇宙最初の「重いタネ(ヘビーシード)」となり、その後に銀河や星の形成を引き起こす引力の源となったかもしれません。
さらに、この原始ブラックホールは宇宙の謎の一つである「暗黒物質(ダークマター)」の正体の候補としても議論されています(ただし、これは今回の研究結果から直接導かれたわけではありません)。
暗黒物質とは、目には見えないけれど重力を持ち、宇宙の物質の多くを占めていると考えられている謎の物質です。
原始ブラックホールがもし暗黒物質の一部だとすれば、なぜ暗黒物質が見えずに重力だけを通じて宇宙に影響を与えているのかも説明できるかもしれません。
このように、原始ブラックホールは超大質量ブラックホールが宇宙の初期に存在している謎だけでなく、宇宙全体を理解するための新たな鍵になる可能性があるのです。
では、どうすればこれらの仮説を確かめられるのでしょうか?